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2006.03.28

最終回:タイ 日本人の温泉愛

世界の温泉紀行 by らくだ

chiangdao1 タイに行ってきた。せっかくならこの連載をしているうちに、どこか未踏ならぬ未湯の国へ行きたいもんだと思っていたところ、第5回の「スイス・メルヘンの町の温泉」にタイに住んでいる山内恵二さんからコメントをいただき、「よし、タイの温泉に決まりだ!」とあいなった。

1週間の旅で合計6カ所の温泉に入った。そのうち2カ所はお寺の敷地内にある温泉というのが、いかにも仏教国のタイらしい。山内さんには北部で4カ所もの温泉に案内していただいた。なかでも一番印象的だったのは川原の露天風呂、バーン・ヤーンプートッ温泉だ。

chiangdao2 タイの北部にあるタイ第2の都市チェンマイからさらに北上すること80キロ近くでチェンダオという町に着く。幹線道路を西に外れて約5キロ、バーン・ヤーンプートッ温泉は自然研究センター手前の川原にふつふつと湧いていた。

塩ビのパイプで土管状のコンクリートの浴槽に源泉が注ぐようになっているが、あくまで自然と一体化した露天風呂だ。浴槽や足湯状態になった自然の湯溜まりもある。温泉好きなら誰しも一目見ただけでウットリしちゃいそうな所だ。

源泉が直接当たる岩肌には湯の花がこってりとこびりつき、白く変色している。タマゴ臭もふくよかに鼻をくすぐる。場所は違えど、日本で慣れ親しんでいる温泉と同じだ。

訪ねたときは、おばちゃん4人のグループが“入浴中”だった。といってもタイのことだから裸になったりはしない。洋服のままで浴槽に入ったり、足湯状態で洋服の上から体にお湯をかけたりしている。

chiangdao3 洋服姿でビニールのシャワーキャップをかぶっている人もいる。洋服の上からお湯をバシャバシャ浴びているのに、髪の毛は濡らしたくないらしい。日本人の私には理解できない感覚だが、なかなかチャーミングな姿だ。

私には彼女たちの会話はもちろん理解できないのだが、おばちゃんたちは「ここはあんたたち(日本人)が作ったんでしょ?」と言っていたそうだ。

そうなのだ。ここはもともと川原のあちこちに温泉が湧いているだけだったという。数年前、チェンダオに住んでいる高橋恒樹さんを中心に、山内さんら日本人有志数人が協力して温泉を整備したのだという。

当局からの認可をもらった上でコンクリートの浴槽を運び込み、川原に据え付けてパイプでお湯を引いたというのだから、文字通り「手作りの温泉」だ。地元でもまだそれほど広くは知られていないらしいが、「日本人が作った露天風呂」とちゃんと認識している人もいるのだ。

chiangdao4この浴槽、日本人らしい細かい気配りが随所に感じられる。下部に湯を抜くための穴が作られていて、フタをあけると浴槽をカラにできる。このような露天風呂は掃除が行き届かずに内部がヌルヌルしてしまうことも多い(第6回のミャンマーの温泉が好例だ)が、これなら掃除もラクだ。しかも、浴槽の中には、腰掛けられるような段まで設けられている。皆さん素人だそうだけど、なかなかどうして本格的だ。

無色透明のお湯は熱め。暑い時期の日中だけに、そのままでは入れない。川原には温泉だけではなく、湧き水もあるそうで、パイプを調節すると源泉と湧き水をちょうどいい配分で混合して浴槽に投入することができるのだという。かなり単純な仕組みに見えるのだが、本当にうまくできている。それでも熱かったら、川からバケツで水を汲んできて入れればいい。

縁までなみなみと溜まった湯にざんぶり肩まで入る。もちろん、四方八方に湯がざぁっとあふれる。湯の中には注意して見ないと分からない程うっすらとした綿毛の湯の花が静かに漂っている。

日本のは違う全身真っ赤な赤とんぼがす~っと飛んでいった。標本から抜け出してきたような鮮やかな蝶もひらひらと飛んでいる。湯面に反射する日差しがまぶしい。こりゃ極楽だ~。夢のような数時間をすごした。

chiangdao5 昼時が近くなると青年2人がやってきた。昼休みを利用して来たという。コーラを飲んで、漫画を読みながら足湯につかっていた。地元でも知る人ぞ知る癒しの場となっているようだ。乗り物の窓からゴミをポイ捨てするのが当たり前のお国柄なのに、温泉の周辺にはゴ ミが落ちていないことからも、地元の人に愛されていることがよく分かる。

日本人による公有地での温泉整備を認可した当局の柔軟さ(日本だったら多分ダメでしょう…)にも感動したし、こんな秘密の場所に見ず知らずの私を案内してくれた山内さんの好意(ケチな私だったらヨソ者には教えないと思う)にも感動した。

そして何よりも印象に残ったのは、「誰もが自由に利用できる温泉を作ろう!」という皆さんの熱意だ。バーン・ヤーンプートッ温泉に入って感じた「日本人の温泉愛」は、温泉そのものよりもずっとずっと熱く、関係ない私まで誇らしい気分にさせてくれた。

この原稿を書いている最中、山内さんから嬉しいメールが届いた。浴槽がもう1つ増えるそうだ。この原稿がアップされるころには設置も終わっているかな。パワーアップしてからも、地元の人に静かに愛される「日本人の作った温泉」であり続けてもらいたい。

なお、山内さんにはこの場を借りて改めてお礼を伝えさせていただきます。2日に渡って案内していただき、本当にありがとうございました。また、私にコラムを書く場を与えてくれ、バーン・ヤーンプートッ温泉を訪ねるきっかけを作ってくれた@ニフティ温泉のスタッフの皆さん、どうもありがとうございました。お世話になりました。

そして最後になってしまいましたが、私と一緒に世界のあちこちの温泉をふらふらしてくれた読者の皆さん、どうもありがとうございました。ペース配分を考えていなかったので、ヨルダンやコスタリカなどの温泉を紹介することができなくなり、どうもすみません。

text by らくだ | 2006.03.28 | [ 世界の温泉紀行 ] | 固定リンク | コメント (0) | トラックバック (2)

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