2005.03.15
第6回:そして、その先の伝説へと
ヒロインたちの温泉伝説 by 谷口芽萌(sui)
毎回温泉を舞台にした女たちの織り成す伝説を書き連ねてきましたが、それももう最終回です。
この連載のおかげで、ただでさえ「万年思春期ライター」という甘酸っぱい肩書きを持つわたしが、
「ライトなシモ系」「ぱんつの人」「ちぢれ毛」
呼ばわりされる始末です。
「ちぢれ毛」にいたっては、もはやわたしという人間を修飾しているものなのかどうかさえわかりません。
なんだ、「ちぢれ毛」て!
わたし=「ちぢれ毛」か!
しかも呼び捨てか!(それはまぁいい)
一通りシャウトさせていただいたところで、
最後の温泉伝説にまいりましょう。
時はトルコで赤っ恥をかいた、さらに3年後へとくだります。
温泉伝説:外伝

大人になり、それなりに温泉に行くこともたしなむようになった。
ほとんど近場のものだったが、そこでも数々の伝説が生まれた。
都内の天然温泉でのぼせてしまい、
素っ裸のまま虚空を見つめ続けた妹。
「仙川湯けむりの里」へ行こう、と約束したのに、当日、千川に行ってしまった友人・H。
その他にもいろいろ、温泉という魅惑のシチュエーションがわたしたちに与えてくれた伝説は、数え上げればきりがない。
最後に、個人的に思い出深い温泉の話をしましょう。
新世紀を迎えた2001年の6月も終わり頃、岐阜・長良川温泉。
なぜわたしがここへやって来たのか、
そして一緒に宿泊したある男とは……!?
みちづれ現実逃避の旅
その頃、わたしは友人の紹介でアパレル系企業に短期の派遣社員として勤めていた。
実はわたしは、この少し前からある病気に疾患していた。
もともと分野違いのアパレル業界にもなじめないのに、さらに病気のおかげで人の話は理解できず、記憶力も悪くなり、また、じっとデスクに向かっていることができず、ふらふらと席を立ってしまうことも多かった。
そのため単純なデータ入力という仕事すら満足にできず、上司やお局様からいびられ、不審な目で見られていた。
しかし当の本人は自分が病気であることに気づいていなかったため、自分は何もできない人間なのだと、日々落ち込んでいった。
一方、大阪にある男がいた。
今でも細々と続いてはいるが、当時は頻繁に「バスケオフ」というオフ会をもうけ、関東や関西などに全国から集ってはバスケをしていた。
そのうちの一人である彼は当時、大阪の大学の修士課程2年めで、わたしより1つ年下ということだった。
恐ろしく頭の切れる人で、ネット上ではその饒舌さが近寄りがたかったが、実際会うと無口でシャイな人だった。
6月のある日、わたしは救急車で病院に運ばれた。
大事にはいたらなかったが、日に日に進行していく症状と、同じスピードで募っていく自責の念に眠れない夜が続いた。
そこへ、ある知らせが届いた。
大阪で研究に忙殺されているその男が、やはり研究のため名古屋大学に行くため、それを利用してちゃっかり2泊3日の温泉旅行をしてやろう、というのだ。
温泉!
わたしはすぐさま彼に電話をし、一緒に行ってもいいかと尋ねた。
電話口の彼は相変わらず無口だったけれど、快くOKしてくれた。
この時点で、わたしと彼はまだたったの4回しか会ったことがなかった。
そして現実逃避の旅は、お互いをみちづれにして始まる。
リニューアル中につきお客様にはご迷惑おかけします。
夕方頃、名古屋駅で待ち合わせ。
彼はスーツ姿だった。もちろんそれは研究の後だから当たり前だ。
しかし、なぜか足元はスニーカーだった。
さらに、無精に伸びきった髪を後ろで束ねていた(後で聞いたところ、髪を切るヒマすらなかったらしい)。
あ、怪しすぎる……こんな人だったか……?
どう見ても不審な男にいざなわれ、岐阜へと旅は続く。
あまり馴染みのない向かい合わせの座席の電車で、
博識な彼はその電車が通る土地の歴史について、いろいろ教えてくれた。
その会話はどこかよそよそしさを残しつつ、岐阜駅に到着。
タクシーで旅館へ向かうと、あたりはもう真っ暗だった。
実はこの旅館は当時リニューアル中で、客をとっていなかった。
手違いがあって彼は予約できてしまったのだ。
仲居さんに案内され、離れの部屋へ。
12畳ほどある部屋に浮かれたわたしはバカ丸出しで、
「ひろーい!」と、ズザザザーとヘッドスライディング。
彼と仲居さんの冷笑を買った。
さっそく温泉へと向かうも、露天風呂は工事中。仕方なく大浴場へ。
独り占めの大きなお風呂は楽しい。だけど、ちょっと物寂しくもある。
わたしと交代で温泉に入った彼は、部屋へ戻ってくると小さな声で呟いた。
「男湯、お湯はってなかったよ……」
計らずしも彼の女湯初体験となった。
ドキドキの2人きりの夜
更けてゆく夜を惜しむように、わたしたちはとにかくお酒を飲んだ。
特にわたしは普段飲まない日本酒なんぞをハイペースであおり、つらい日常を忘れようとしていた。
正面でひきつった微笑みを返す男になど目もくれなかったが、彼は遅くまで付き合って飲んでくれた。
そろそろ寝ましょうか、という頃になって、ふと気がついた。
あら。よく考えたら、男子と2人きりの夜じゃない。
この状態になるまで気づかなかったあたりがわたしのイタイとこだが、やっと少しドキドキしてきた。
しかも彼には「だっこ枕」という、バスケ仲間の間では有名な寝技があり、彼の左側にあるものは枕だろうと人間だろうと、ノンレム睡眠中でありながら、とんでもない力ではがいじめにするのだ。
布団に入る前に彼が言う。「だっこ枕する?」
冗談なのはさすがにわかった。
でも、「うん」て言ったらどうなるんだろう、というちょっとした冒険心があった。
わたしは元気よくうなずくと、彼の布団にもぐり込んだ。
……とたん、爆睡。
2人ともとても気持ちよく翌日の昼近くまで眠った。
わたしにとっては何年ぶりかに得た、深い深い熟睡だった。
大切な時間
3日めの朝にチェックアウトするまで、
わたしたちはずっと長いこと「だっこ枕」をしていた。
食事をとっては「だっこ枕」。
温泉に入っては「だっこ枕」。
TVを見ながら「だっこ枕」。
お酒を飲んでは「だっこ枕」。
そして、爆睡。
これはあれだ、菊池さんの書いていた、
どこに行くかが問題ではなく、遠足というイベントが楽しかったのだ。
旅館の外では長良川が鵜飼いのシーズンである。
でも、それを見に行くわけじゃない。
温泉に入ったら女湯しかお湯がはってなかった。
でも、お湯を楽しむわけじゃない。
わたしたち2人に絶対的に足りなかったのは、こんな風に人肌を感じてまどろむ時間だ。
わたしたちは温泉旅行というイベントの中で、ささやかな時間を過ごすことこそ満喫した。
だけれども、けっして、けっして交わることはなく。
温泉旅行の顛末は
旅館を出て名古屋駅で彼は大阪、わたしは東京へと別れる前に、
わたしたちは当たり前のように次に会う日の約束をした。
先に出発した大阪行きの新幹線がホームから出てゆくのを、ずっとずっと見ていた。
その後は毎月彼が東京に遊びに来ていたが、
わたしの病状が深刻なものになり、一度大阪で就職をした彼は、
そこを辞めて東京へと出てきた。
そしてわたしたちは自然に結婚というかたちで一緒に暮らすようになった。
それが、現在のだんなさんです。
わたしは結婚の前後も入院や寝たきり生活を繰り返し、
1年めの節目に障害者として手帳を交付されました。
そしてその半年後には年金受給者となりました。
たくさんの休息と適切な治療によって、再びライターとして少しずつお仕事ができるようになったのは、ここ半年の話です。
とっても残念なことに、わたしにはここ数年の記憶があまりなく、
この温泉旅行のこともおぼろげにしか覚えていません(今回書くにあたってだんなさんに取材しました)。
けれどあの怠惰な温泉旅行が今のわたしたちに、
過ぎてゆく日々を共にいとおしむ気持ちを授けてくれたのは、
言うまでもありません。
そして今月、2人の生活は2年めを迎えます。
新たな伝説の扉は、これから何枚でも開くでしょう。
text by 谷口芽萌(sui) |
2005.03.15 |
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2005.03.01
第5回:トルコで「オー! プロブレム!」
ヒロインたちの温泉伝説 by 谷口芽萌(sui)
こんにちは、suiです。
すでにレポートもアップされていますが、「月曜温泉」にわたしも参加させていただきました。
初対面の人ばかりで戸惑いながら入る温泉……なかなかないシチュエーションです。
堂々と集った総勢約20名の大人の中で、わたしは最初、人見知りっ子を大爆発させてビクビクしまくっていました。
しかし宴も進み、次第に緊張がほぐれるといろんなことが見えてきました。
一番最初に声をかけてくださった先代ライターの森野小熊さん。非常に優しいお姉さんといった感じで、彼女が声をかけてくださらなかったら、わたしはいつまでも一人で入り口付近をさまよっていたことでしょう。
そうるさんも真っ先に「温泉行きましょ!」と声をかけてくださり、その長い手足を駆使して話す落ち着きのなさに大変好感を覚えました。
そして白羽さんの潔い飲みっぷりに昔を思い出し、馬鹿旦那さんの素晴らしい滑舌でつむぎ出される楽しいお話と、お土産にとくださった温泉まんじゅうの味にほだされ、冬薔薇さんのノンストップ・トークに圧倒されながらも、同伴された執事さんとの仲むつまじさに自分の将来を重ね合わせたものです。重ね合わせたといえば、ライター菊池さんの人間失格ぶりにも大変共感を覚えました。
残念ながらお話できなかった方もたくさんいらっしゃいましたが、次回が開催されることがあれば、またぜひ参加させていただきたいと思っています。
「あぁ、あのぱんつの人」と認識されようが、かまいません(言われたらしい)。
では、今回も伝説の舞台へと行きましょうか。
いざ、トルコへ!
太陽のふりそそぐ温泉地・パムッカレ

あの恐怖の箱根温泉旅行からさらに4年。わたしはトルコをバスで周遊していた。
いわゆるパックツアーで、大学の卒業旅行として参加したわたしたち女子大生5人組を除いては、お金と暇を持て余した中年以降の夫婦連れがほとんどだった。
しかし彼らはわたしたちを娘のように可愛がってくれたし、日本とトルコとのハーフのガイドさんや、バスを運転するトルコ人ドライバー2人ともとても仲がよくなって、なかなか幸先のいい旅だった。
トルコ東部は当時から政情が安定せず、東部を除いた主要観光地を巡る旅となった。
古都イスタンブールから始まり、首都アンカラ、奇岩がそびえ立つ驚異的な自然を誇るカッパドキア、異色の宗教メヴラーナ教の聖地コンヤ、と来て、わたしたちはツアーのハイライト、トルコ西部のパムッカレへと歩を進めた。この後はイズミール、トロイと行って、再びイスタンブールへと戻る予定だった。
パムッカレといえば有名なのが石灰棚。ヒエラポリスから湧き出る石灰分を含んだ温泉水が、斜面を流れ続ける間に白く地表を覆っていき、このような不思議な景観になったとのこと。

遠くから見るとこんな感じ。雪みたい

実際立ってみても一面の雪景色のよう
パムッカレとは「綿の城」という意味。確かに雪や綿のように見える。でも実際は岩石なので硬い。
温泉水の温度は35度。太陽がさんさんとふりそそいでいるので、かなり温かく感じられる。

冷え性にはうれしい温かさ
そして歩いてみました。ひゃっほうー! 楽しい! あったかい!

すっかり童心にかえってはしゃぐ

異国の地で暖かみに触れ高笑いするsui・22歳
この不思議な土地には、心臓病、循環器疾患、高血圧、神経性の障害、リウマチ、目や皮膚の病気、神経や肉体の疲労、消化器疾患、栄養障害に効果のある温泉が豊富に湧き出ているのだという。
また、ヒエラポリスの遺跡にはローマ浴場跡もあり、まさに温泉の歴史を肌で感じられるリゾート地だった。

浴場跡でいい湯だな気分
格安ツアーなのでそれまでの町のホテルは古かったりシャワーが水しか出なかったり、まぁ値段相応のものだったが、ここパムッカレのホテルはさすがリゾート地、たっぷりリゾート気分を味わえるなかなかいいホテルだった。

ホテルの部屋からのぞむ、大地に沈む夕日
部屋の美しさや設備の充実度も大満足で、わたしたちはかなり浮かれていた。
もちろん温泉地なので、ホテルの大浴場も素晴らしいものだった。
これが本物のトルコ風呂。思えばかつて日本はなんという不謹慎なイメージを与えていたのだろう、と思った。
そして、ここでわたしたちは冒険へと出た。当時大ブームだった垢すりや、本場トルコマッサージを体験してみたのだ。
しかし垢すりやマッサージどころか、外国の温泉に入ることすら初めてのわたしたち。
しかもマッサージャーはイキのいい胸毛を生やしたトルコ・ダンディ。果たして日本女性の操は守れるのか……?
問題(プロブレム)発生!
まず、女子浴場内に普通に男性のマッサージャーがいるのに驚く。
体を洗ったり湯につかる女性をつかまえては、浴場内の真ん中に位置する垢すり台に寝かせ、彼は自分の仕事をする。
わたしが浴場に入ったときには、友人のうちの一人はすでに垢すりを体験していた。
一応、ハンドタオルを胸に、バスタオルを腰に巻きつけてはいるのだが、垢すり台にうつぶせに寝かせられ、ゴシゴシゴリゴリと垢を落とされている彼女を足元のほうから見ると、バスタオルがはだけてしまって、とんでもないもんが見えている。
わたしたちはギャースカ騒いで、「見えてるよ! すごいの見えてるよ!!」
と彼女に忠告するのだが、されるがままになっている彼女、どうやらすでに羞恥心とはおさらばしたらしい。
恐れをなしたわたしは、別の友人と別室でのトルコマッサージに挑戦することにした。
ドアを開けると、優しい雰囲気の男前のトルコ・ダンディが、「ハロー」と声をかけてくる。
わたしはフランス語を覚えたせいで英語をスコーンと忘れてしまったので、ぎこちない感じで「は、はろー」と返す。
部屋はつい立で2つに仕切られ、わたしと友人はつい立を挟んで隣りのベッドに寝かされた。
どきどきどき……こ、これから何が起こるんだろう……!
仰向けに寝たわたしのタオルをはだけると、トルコ・ダンディは驚いて声を上げた。
「オーーー! プロブレーーーム!!」
見えちゃったのだ。何もかも。そりゃそうだ。タオルしか巻いてなかったんだから。
え。だって。あ。やっぱ。水着きるものなの!?
だってだって水着持ってきてないし。ぱんつ? ぱんつでよかったの?
プロブレムと叫ばれて混乱するわたし。
そしてその叫び声を聞いて、「なに!? なにがあったの!?」と恐怖に怯える隣りのベッドの友人。
このトルコ・ダンディはどうやらわたしへの施術が終わったあと、友人のほうへと移るようだ。
死ぬほど恥ずかしいのだが、まさにまな板の上の鯉状態のわたし。
トルコ・ダンディは再びタオルでわたしの下半身を覆うと、マッサージを始めた。
アロマオイルのようなものを塗って器用に体の上を滑りぬく手。
体が温まってきてウトウトし始めるわたし。
そこへトルコ・ダンディはさらにオイルを手に振り掛けると、胸のタオルをはだいて両手でグヮシと人の胸をつかみ、思いっきり揉み始めた。
あまりのことに驚愕するどころか、爆笑してしまうわたし。
その爆笑を聞いてさらに不安がって声をかけてくる友人。
「どうしたのー!? ねぇ、何やってるのー!?」
爆笑しながら答えるわたし。
「つうか胸揉みしだかれてるしーーー!!」
「えぇぇぇぇぇっ!!!」
結局15分ほどマッサージをしてわたしは部屋を出、友人はその後まったく同じコースをお見舞いされることになった。
マッサージ自体はとても気持ちよかった。素晴らしかった。
しかし女性として何か大切なものを失ってしまってはいないだろうか……そんな後悔に胸を痛めて眠った夜だった。
旅の恥は……
翌晩、夕食時に「プロブレム」の話をすると、ツアー客のおばさんたちは非常に驚いて、
「わたしたちも垢すりとマッサージやったけど、もちろん下に水着着たわよーぅ」と、手放しで爆笑してくださった。
そ、そか……やっぱ着るものなのか……あたりまえか。
旅の恥はかき捨て、とは言うが、旅の恥どころか日本の恥ではないだろうか……。
大学卒業、そして社会人になる日を目前に控え、改めて自分たちの馬鹿さかげんを思い知った5人だった。
---
次回、とうとう最終回です。
最終回こそはためになる温泉情報などが出てくればいいですね(他人事)。
text by 谷口芽萌(sui) |
2005.03.01 |
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2005.02.15
第4回:卒業旅行で生まれた、忘れえぬ伝説
ヒロインたちの温泉伝説 by 谷口芽萌(sui)
こんにちは、suiです。
実はわたしは今でも月に一回ほど、お友達と体育館を借りてバスケットボールをしているのですが、
夫が見事に腰を痛めてしまいました。選手生命の危機です。
と言っても単に普段運動不足で骨がスカスカなところに、大食漢が災いして脂肪がこってりつきまくってるため、筋を違えた程度だとは思うのですが。
我が家の小さなお風呂で温めてマッサージをし、温湿布ならぬ貼るホッカイロでごまかし続ける毎日です(病院行けよ)。
あー今こそ温泉行きたいですね~。
馬鹿旦那さんの廃校温泉、いいなぁ。楽しそう。寒そうだけど。
高校の制服ならまだ持ってるので、次回はぜひ誘ってください。
とりあえず来週の月曜温泉で人生の勝ち組感を味わわせていただくことにして(夫はおるすばんですが)、
今回も忘れられない温泉伝説を書いてゆきたいと思います。
高校時代最後の伝説。その生き様をとくとご覧ください。
連載4回目にして、やっと本物の温泉登場

高校の卒業旅行で箱根へと向かった女子バスケ部メンバー。
普段乗ることのない向かい合わせの座席の電車でたっぷり旅行気分を味わった後、かの女らはこの名高い温泉街へとやって来た。
旅館へと向かう途中で観光名所に立ち寄っては、記念にと写真を撮りまくる。
高校生活の中でも共に苦しい練習を生き延びてきた唯一無二の仲間。
たとえ進路がわかれても、その友情だけは変わることはないという自信は全員にあった。
しかし同時にこの旅行が少女時代の自分たちの、最初で最後のものになるかもしれないと、
そんな予感もまたかの女たち各々が確実に感じていたことでもあった。
この箱根の街で撮られた何十枚という写真は、そんなかの女たちの絆への小さな希望でもあった。
初めての友達どうしの旅行。右も左もわからず予算も少ないかの女たちは、高校の教師に勧められた宿をとっていた。
しかしその旅館は……そう、果てしなくみすぼらしかった。
古いたたずまい、閑散とした空気、そして、いかにも「出そう」な部屋……。
なぜにこうとかく温泉となると運が悪いのか、そもそもこの宿を勧めた教師の思惑は何だったのか、チックインをする手を震わせながらかの女たちは思いをめぐらせた。
しかし温泉自体は意外にも本格的で、もちろん他の客など見当たらないので、「貸しきりだぜー!」とはしゃぐ余裕もあった。
……あの夜までは。
いるんだ、こういうやつ
その晩、温泉にゆっくりつかった後、おそろいの浴衣姿でお茶を飲みながら、いつものようにみんなおしゃべりに勤しんでいた。
ふと、Eが呟いた。
「ちょっと待って! ……何か聞こえる……!」
Eは霊感が強く(自称)、この言葉でそれまで上機嫌だったバスケ部員たちを一瞬にして恐怖のどん底に陥れた。
続けざまに奇怪なことを口走るE。バスケ部員たちの体に戦慄が走る。
そこへ、Fがトイレに行きたいと言い出した。
人一倍怖がりなFは、Gに頼み込んでトイレに付き添ってもらった。
(ちなみにこの旅館のトイレはかの女たちの部屋を出た廊下の突き当たりにあり、当然のことながら水洗ではない、雰囲気たっぷりの代物だった)
まだ髪も乾かないままトイレへと入り、用を足しながらしきりに「Gちゃん、いるよね!?」と確認するF。
そして、素早くトイレから出たFに向かって言い放ったGのひとことが、この旅館を瞬く間に狂乱の舞台へと変えた……!
集団ヒステリー、ふたたび
トイレから出てきたFは乾いていない長い髪を顔面に垂らし、ゆっくりと顔を上げGを見た。
その姿を見てGが呟いた無邪気なひとこと。
「(Fちゃん)こわぁい」
しかしそれを聞いたFはそれまでにEの恐ろしい言葉で洗脳されていたこともあり、瞬時にパニックを起こしてこの世のものとも思えない悲鳴を上げた。
「ぎゃぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーっ!!!」
Gを突き飛ばし、悲鳴とともに浴衣の前をはだけさせて部屋へと猛ダッシュをするF。
「ちがうの、ちがうんだよ~」というGの言葉など耳に入るわけもなく。
Fは部屋に着くと乱暴にふすまを開け、さらにEによって恐怖を植えつけられていた他の子たちの悲鳴をも誘った。
それに再び驚いたFはその勢いで手前の座椅子の背を踏みつけると、当然座椅子はFのほうに傾き、傾いた座椅子をまた踏みつけてそのまま部屋の中央にあった木目調のしっかりとした古いテーブル、お茶やお菓子の散乱するテーブルの上に体ごと見事にうつぶせにスライディングした。
音を立ててこぼれ落ち、割れてゆく湯のみやコップたち。
Fがトイレから飛び出してここまでの間、約30秒。
一瞬の出来事ではあったが、まさに阿鼻叫喚、地獄絵図とはこのことを言うのだろうと思った。
全てが静まり返った頃、Gによって事の説明がされ、平静を取り戻したバスケ部員たちは眠りについた。
そして翌日、かの女らは忘れられない伝説を抱き、東京へと帰っていった。
後日談
実は、わたしはこの旅行に行っていない(受験のため)。
帰ってきたみんなの口から興奮気味に話を聞き、なんておいしいネタなんだ、と思い、会う人会う人に持ちネタとして勝手に語り継いでいる。
その後短大に進んだFは「将来のだんなさまなのー」と、実際現在のご主人である男性を紹介してくれたが、もちろんわたしは最初に彼にこのネタを披露した。
傾いた座椅子について詳しく説明するために、飲み屋の箸袋を二つ折りにしてジェスチャーまで交えて語る熱心ぶりである。
それからFは結婚式をするにあたって最初はスピーチをわたしに頼もうとしたのだが、「絶対あの話するからイヤ!」と却下した。
そして他のバスケ部員の子に結局は頼んだわけだが、晴れの舞台でしっかりかの女はこのネタを披露してくれた。
親戚一同を前にして素晴らしい苦笑いをするFは、その日一番輝いていた。
小さな希望をこめた写真は持っていないわたしだが、かの女たちの不安な予感は裏切られ、相変わらず仲良くやっている。
今は、あの卒業旅行から、もう11年後。
---
やっと温泉は出てきましたが、ちっとも触れてないし、ていうかわたし行ってないし。すみません。えへ。
次回の伝説は世界に飛び出します!
text by 谷口芽萌(sui) |
2005.02.15 |
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2005.02.01
第3回:湯けむりが女(ひと)を大胆にさせる……そして流血事件へ
ヒロインたちの温泉伝説 by 谷口芽萌(sui)
こんにちは、suiです。
早いものでこのコラムも第3回目になります。
終始一貫して温泉、というかお風呂にまつわる伝説を書かせていただく予定ですが、いやぁ~それにしても、どうしてこうPCに向かって「書くぞー!」という姿勢になると、眠いのでしょう。
まったくもって緊張感のない、はなはだ不謹慎なわたくしめですが、そんなわたしにみなさんの体験した温泉伝説もぜひ教えていただけましたらー、と思います。
わしの重たい目が不動明王のごとくカッ! と見開くような楽しいお話をお待ちしておりますー(ちなみに不動明王は右目は見開きつつも左目は半眼らしいすね。天地眼といって天と地の両方を同時に見ているらしいですが、同じ半眼でもわしのはほぼ白目です)。
では、前回の翌年へとワープ☆
貧乏都立高の修学旅行は高松

高校2年に進級し、わたしたちは早くも修学旅行で四国は高松へとやってきた。
栗林公園をゆっくりと巡り茶屋でお茶をいただき、金刀比羅宮の参拝道を汗をかきながらひたすらムキになって登り、参拝をすますとまたひたすら下山し、ふもとの店で讃岐うどんをいただく。
当時ちょうどレオマワールドができたばかりだった頃のように記憶している(今はニューレオマワールドとしてリニューアルされたそうですね)。
そちらへと足を伸ばすグループもあったが、こんなに観光名所の多い街まで来てそれはないだろ、と思ったわたしは進んでこの街の見どころをまわった。
生まれて初めて本州を脱出したわたしは、この古き趣のある街に大変魅了された。
何十年、何百年と歴史を編んできたこの街の、ひとつの層に今や織り交ぜられようとしていた(気がした、勝手に)。
もうこの頃には何度か温泉に行った経験も増えてきたわたしだ。
宿泊先の旅館の温泉もよかったのだが、「“銭湯”というものに行ってみたい!」と誰かが言い出し、何日目かの自由行動の時間に同じクラスの女子の何人かだけで街中の銭湯へと繰り出すことになった。
高松の湯けむりがわたしたちを……!
女子高生が大挙して訪れた街の昔ながらの小さな銭湯。
番台には口うるさいおばちゃん。
湯上り肌にタオルをぴしぴしやるお母さん。
常連客と話し込むおっぱいがしなしなのおばあちゃん。
……これが銭湯だ!
わたしたちは、もうこの雰囲気だけで楽しめた。
温泉には何度か行くようになったものの、まだお互いに裸を見せ合うのはためらう年頃である。
服を脱ぎながら隠しながら、脱いでんだか着てんだかわからんような状態でジタバタするわたしたち。
そんな可愛げのあるわたしたちを尻目に、「オラオラ、どけどけー!」と勢いよくその巨乳を振りかざし、浴場へと闊歩してゆく親友・B。あっぱれである。
後を追うように浴場内へと恐る恐る入るわたし。目の前には想像どおりの背景画。
「わぁ~銭湯っぽい!」と少し浮かれて自分の場所を確保する。
シャワーを浴びていると、さらに惜しげもなく裸体を披露しながらまた別の親友・Cがズンズン浴場内を歩いてゆく。
その素晴らしいスタイルに少々ドギマギして、「よくそんなに堂々とできるねぇ~」と声をかけると、
「だって、あたし見えないし」とCはぶっきらぼうに答えた。彼女はど近眼だった。
「あんたが見えてなくても周りには丸見えなんだよ……!」という言葉を、わたしは飲み込んだ。
湯船につかろうと向かうと、そのすぐそばでDが髪を洗っていた。
クラスで1,2を争う小柄なのに、Dの出てるとこはものすごく出てるものに思わず目をやったわたしに、かの女はこう答えた。
「あたし、乳輪でかいの」
聞いてないし! 余計なこと言わなくていいし!
ていうか、乳輪って、乳輪って……!
と、同い年の女の子の口から飛び出た、それまでは自分で口にしたこともないかもしれない言葉が、少しのぼせたわたしの頭の中を反復していた。乳輪……!
このようにかの女らは遠い四国の湯けむりを浴び、いつもより大胆になっていた。
サウナ! サウナ! サウナ!
この銭湯には小さなサウナがあった。せっかくなので体験してみよう! と、全員で押しかける。
これがサウナ……!
想像以上に暑い。
その暑さに、全員裸体でかつ無言で耐える。一見するとなんて珍妙な空間なのだ……!
わたしがこの珍妙な空間を客観的に見ることができなくなりかけた頃、誰かが言った。
「そろそろ出ようよ!」
その言葉を受けて、わたしたちは息をそろえた。
「じゃー出るよ。いち、にの、さん……!」
一斉に飛び出し向かった先は水風呂。誰もが我先にと飛び込もうとする。
わたしも足を少し持ち上げ浴槽をまたごうとしたその瞬間、
「オラオラ、どけどけー!」と再び親友・Bがわたしを突き飛ばして水風呂に飛び込んだ。
突き飛ばされたわたしは片足を持ち上げたまま、無残にも膝を水風呂の角にぶつけて、そのまま頭から水中へと沈没した。ぶくぶくぶく……。
そのあとのおはなし
我に返った全員、爆笑である。
血出てんですが! 膝から思いっきり流血してんですが! かなりの出血量なんですが!
見事にぱっくり膝の皮膚が切れて浴場内にダラダラと血を垂れ流している。
なのにつられてヘラヘラ笑ってしまう自分。
こ、こんなに体張って笑いを取らなくてもよかったんじゃないか……?
頭をよぎるそんな考えも、心の中に根付いた芸人魂が
「いいじゃん。おいしかったんだから」とささやく。
確かにちょっとおいしいと思っていた。てへ。
負傷した膝はクラスメートたちにばんそうこうでテケトーに処置され、わたしたちは旅館へと戻った。
その後わたしたちは瀬戸大橋を渡り岡山・倉敷へと拠点を移し、何事もなく無事に修学旅行を終えた。
その間、誰一人わたしの膝の負傷を教師へ報告する者はいなかった。
……お、おまえらぁ~~~っ!!!
---
次回、高校時代の温泉伝説完結編です。
第4回目にしてやっと本物の温泉が登場する……やも。
text by 谷口芽萌(sui) |
2005.02.01 |
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2005.01.18
第2回:あいつらと混浴ですか
ヒロインたちの温泉伝説 by 谷口芽萌(sui)
こんにちは、suiです。
なんだかタメになる情報満載のおフログの中で、
そうる姐さんに続けとばかりにオレ流を貫き通してますが、
ぜひとも最終回までお付き合いいただきたく思っております☆
さて、あまり品のないお話の第1回でしたが、読んでくださった方々、
ありがとうございました。
さらに品のない話が続きますが、わたし自身が大いに上品なので
問題なしですよね。うふ。
今回は、前回から月日は流れ、賢く美しく成長(自分比)し、
高校生になった頃のお話をしようと思います。
果たして温泉は出てくるのでしょうか。
日本酒旅館の“温泉”

高校へ進学し、バスケ部に入部したわたしは1年生の夏休みを
合宿のため山中湖で過ごした。
午前中は筋トレ、午後は体育館で練習、そして夕方には
湖畔をランニング、と毎日続く厳しい練習メニュー。
一日のプログラムが終わってヘトヘトになって辿り着くのは、
なんだか日本酒みたいな名前の旅館。
ここがわたしたちの宿泊先だった。
畳の匂いが和室にあまりなじみのないわたしたちにさえ
懐かしく感じられ、ぐったりと疲れてはいてもみんなで
布団を並べる作業すら楽しいものだった。
しかし……ここの“温泉”は、どう見ても”温泉”ではなかった。
大浴場ですらなかった。
内風呂だった。
けれど旅館の者たちは確かに“温泉”と呼んでいた。
小さなタイル貼りの浴室内に据え置かれた、
これまた小さな色あせた水色の、しかし予想に反して深い浴槽。
……うーむ。確か田舎のおばあちゃんちの改装前の
お風呂がこんなだったような……。
浴室に一歩足を踏み入れたとたん、この有様に一瞬、
素っ裸で固まってしまったわたしたちだったが、
それでもみんなで一緒にめいっぱいかいた汗を流すだけで、
バスタイムを十分に楽しむことができた。
狭くて異常に深い浴槽に2,3人でイモ洗い状態で浸かるのも、
夏休み明けのいいネタができたと面白がる余裕さえあった。
同年代の女の子のカラダを見る機会もほとんどなかったわたしは、
友人たちのカラダを見て「みんな毛が生えてるんだ……」
などと思わずぼそっと口走ってしまい、「当たり前だバカヤロー」
と友人たちに一喝されたりする場面がありながらも、
とりあえずわたしたちは仲良く疲れた体を癒すことができた。
どんな苦境でも楽しさをみつけられるバイタリティ、
それが女子高生の力。
しかし、それも最初の一日めまでだった。
水面をゆらめく謎の物体
翌晩、“温泉”こと内風呂へみんなで向かうと、
湯船が異様に濁っている。
その異変には気づいていながらも、とにかく疲れ果てていたわたしたちは恐る恐る入浴した。
ゆっくりと肩まで浸かった目の前に、“何か”がゆらゆらとゆらめき、
流れてゆく。
こ、これはまさか……!!
毛だ。
それも、ちぢれ毛だ。
はやる胸の鼓動をおさえて、ただじっと
目の前をたゆたうちぢれ毛を見つめる。
1本、また1本と流れてゆくちぢれ毛。
そんなわたしたちの頭の中に、その日の朝の記憶がよみがえる。
練習先の体育館に向かうため旅館の入り口に集合していた際、
すれ違った大きな黒い軍団。
ごつくて、浅黒くて、オッスな風貌を持った彼らは……そう――
どこかの高校のアメフト部員たちだった。
彼らはこの日本酒のような名前の旅館にやってきた、
2番目の客だった。
1番目はわたしたちバスケ部。
そしてそれ以降、客は来ていない……。
バスケ部11人、揃って息を飲み、
誰かが先に声を上げるのを待っていた。
しかしそれは共に厳しい練習をくぐり抜けてきたゆえに、
絶妙なチームワークをもってして現れた。
「……いぃぃぃぃぃーーーやぁぁぁぁぁーーーーーーー!!!」
まさに集団ヒステリー状態。
オッスなアメフト野郎たちによって汚染され、
ちぢれ毛までばら撒かれた浴槽に
平気で浸かってしまったわたしたち。
思春期真っ只中のわたしたち。
間接的にではあるが、わたしたちの頭の中では
「混浴ですか! あいつらと混浴ですか!」
と声にならない叫び声を上げていた(実際にはギャーギャー言ってて言葉になってないだけ)。
バスケ部11人のうち、ほとんどは叫びながら屋外にあった
コンクリート打ちっぱなしの水浴び場のようなところに
身を清めるためにシャワーに打たれに行った。
屋外にあるため、シャワーはもちろん冷水である。
いくら8月とはいえ冷える湖畔で夜に
冷水のシャワーを浴びたくなるほど、
アメフトくんたちが思春期の少女たちに犯した罪は大きかった。
(その頃彼らはそんなこと露も知らず、風呂上りの軽いエロトークなどで盛り上がっていたのだろうが)
間違った性知識
一方、わたしを含めた3人は逃げ遅れ、依然湯船に浸かったまま身動きを取れないでいた。
ほぼ固まっている3人。ふと、そのうちの一人が言葉を漏らす。
「……ニンシンしたらどうする?」
わたしたちはコギャル第一世代と呼ばれたものだが、
そんなもんが流行り始めるのはこの2年後、
3年生に進級した頃のことである。
この時点ではあくまでも平凡な女子高生、しかも日夜部活に明け暮れ、
性に関する知識などちーともなく、あまつさえこんな間違った想像すらしてしまっていた。
彼女たちを突如襲った不幸がここまで追い詰めたわけだが、
今考えるとそんな訳わからん心配までして、不憫よのぅ……。
その晩はひどく汚されたような不快感と、
誤った性知識から来る誇大妄想とに
うなされながら、わたしたちは浅い眠りをとった。
その後も翌日から合宿が終わるまで、
わたしたちはあえて毎晩、冷水に打たれた。
アメフトくんたちは何も知らず、優雅に内風呂で汗を流していた。
女子バスケ部は、アメフトに負けた――。
当時毎日日記をつけていたわたしは、
合宿が終わり帰りのバスの中で、
この高校生になって初めての、きらめくはずの夏休みが
不幸な思い出に彩られていったさまを克明に記した。
このことはわたしの人生における温泉道の中でも、
突出して不愉快な光を放つものになっている。
(が、今では別になんてことはない思い出になっている。加齢って怖いですね)
そして今ここでわたしは、アメフトに敗れながらも
修験者のごとく冷水に打たれた逞しき女子バスケ部員たちに、
温泉伝説を飾るヒロインの称号を授けたい。
‐‐‐
次回も高校時代の温泉伝説が続きます。
四国・高松で生まれた伝説とは!?
text by 谷口芽萌(sui) |
2005.01.18 |
[ ヒロインたちの温泉伝説
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2005.01.05
第1回:伝説はここに始まった
ヒロインたちの温泉伝説 by 谷口芽萌(sui)
はじめましてー。ならびにあけましておめでとうございますー。
万年思春期ライターの
谷口芽萌(sui)〈たにぐちめぐみ(すい)〉と申しますー。
小学校卒業時から背が伸びてません!(横は伸びましたが!)
三十路目前にして体年齢も20歳前後をキープ!(肌は衰えてますが!)
と、身体的な面もさることながら、suiの愛読書は
「小さなことにクヨクヨするな!」
だという噂がまことしやかに囁かれるほどのガラスのハートが、
万年思春期と言われる所以です。
ていうかそんな本あるんですか?
そんなわたしですが、このたび幸運にも
おフログを書かせていただくことになりました。
温泉にまつわる(至極個人的な)伝説をみなさまにお届けします。
これから3ヶ月間、よろしくお願いしますねー。
伝説の舞台はいつもそう、温泉だった

長野・八ヶ岳――小学校6年生にあがったわたしたちは、
「移動教室」という名の修学旅行のためにここへ来た。
八つの峰に見下ろされる中にある市の宿泊施設で、
わたしたちは2泊3日を過ごす予定だった。
大食堂でみんなで食べる食事はいつもの給食のそれとは
違った印象を持ち、メニューにさほど変わりがあるわけではないものの、
心なしかとてもおいしく感じられたものだった。
もちろん、お風呂も楽しみの一つだった。
東京っ子のわたしたちの中では、温泉というものがどんなものかを
知っている子は少なく、
その宿泊施設の大浴場を、わたしたちは無邪気にも温泉と呼んだ。
しかし、ここで事件は起こった。
同じクラスの親友・A。
男まさりで運動神経がよくて、光GENJIの大ファンだったA。
かの女のぱんつが、脱衣所から消えたのだ!
今ほど性犯罪の低年齢化が進んではいなかったものの、
小学6年生という微妙な年齢だけに、
報告を受けた教師陣は騒然となった。
Aは部屋へと戻り、膝を抱えてうつむき、泣きじゃくっている。
必死に励ます友人たちがかの女の周りを取り囲むが、
Aは一度も顔を上げなかった。
あの、いつも元気いっぱいで、普段は教室で男子を追いかけて
走り回っているAがだ。
わたしはそんなかの女を見て胸を痛めていた。
もし、なくなったのが自分のぱんつだったら。
わたしだって、とても顔を上げていられないだろう。
現場の状況を説明すると、わたしとAのクラスの女子たちは
一斉に入浴したが、大浴場ではしゃぐ者、サクサク洗ってあがる者と、
浴場から出たのはみんなバラバラだった。
もちろんAは人一倍はしゃいでいたので、
かの女が浴場から出たのはほぼ最後だった。
そして着替えようと荷物に手をかけたところ、
ぱんつだけが消えていたのだ。
他の服などには一切触れられた形跡はなかった。
そして大変悲しいことに、消えたのは使用済みのぱんつのほうだった。
消えたぱんつ、犯人はだれ?
教師陣はこのデリケートな事件に穏便に対処するため、
女性の音楽教師を長に立て、対策本部を女子脱衣所に置いた。
音楽教師はまず入浴係(確かそんな名前だった)の女子のみを
本部に集め、まずは全力でAのぱんつを
探し出すよう指令を出した。
もしかしたら、誰かが間違えて持って行った可能性もある。
しかし、もしそれでもみつからなかったら、
これはやはり第三者による犯行なのか……?
そしてその入浴係の中には、わたしもいた。
まったくひどい話だ、とにかくみつけてあげなくちゃ……!
正義感に打ち震えながらひとまず部屋へと戻ろうとしたわたしに、
ふとあるイメージが頭に湧いた。
あれ、そういえば、もしかして……そんな……まさか……!?
部屋は大部屋で、相変わらず片隅ではAが泣きじゃくり、
クラスの女子たちの鉄のガードで守られている。
わたしはかの女たちに背を向けるようにして、
こっそり自分のかばんを開けた。
母が下着入れに、と持たせたスーパーの袋を音を立てないように開け、
中をまさぐると……
あった。
ていうか、犯人オレじゃん!
つまりあれだ。
Aより先に浴場を出て着替えていたわたしは、
落ちていたAのぱんつをよく見ずに自分のものだと思い、
さっさと下着入れにしまってそのままかばんを閉じてしまったのだ。
ほ、ほんとよ! けしてAのぱんつが欲しかったわけじゃありません!
しかし……と、チラッと後ろのAのほうを見た。
あの落ち込み具合。それもわかる気がする。
Aのぱんつにはかなり頻繁に使用された痕跡
が残っていたからだ(想像してね。うふ☆)。
Aよ、わたしもこんなぱんつを誰かに持っていかれてたら、
そりゃ泣きじゃくるだろう。
よかった、犯人がわたしでよかったよ……!
などと感慨にふけっている場合ではない。
問題は、これをどうやってAに返すかだ。
たとえ手違いであったにしても、こんなにはっきり使用済みとわかる
ぱんつを友達から返されたら、
あの落ち込み具合だ、Aがその後どんな行動に出るかわからない。
そこまでいかないにしても、わたしとAとの友情に
亀裂が生じるのは明らかだろう。
考えろ、考えるんだ、オレ!
一番事が荒立たない方法を……!
ぱんつ返還プロジェクト始動
わたしはAのぱんつを気づかれないように丸めてポケットに突っ込み、
盗難事件対策本部の置かれた脱衣所へと戻った。
入浴係たちがまだ必死にAのぱんつを探し、
音楽教師は腕を組んで本部の真ん中で仁王立ちになっている。
……こ、こわい! センセーこわい!!
で、でも、頑張るのよ! これしか方法はないのよ!
去年の学芸会で主役を務めた演技力で物を言わすのよ……!
わたしは探すふりをしながら音楽教師から少しずつ離れ、
頃合いを見計らってAのぱんつを投げた。
そして、
「センセー! Aさんのぱんつみつかりましたー!!」
と、いかにも今みつけましたよー、ピュイプ~(口笛)
と言わんばかりに息を弾ませて叫んだ。
すぐに音楽教師とその場にいた入浴係たちはわたしの元に集まり、
教師は「どこ! どこにあったの!!??」
と、物凄い剣幕、まさに鬼の形相でわたしを問い詰めた。
そのあまりの迫力にガタガタ震え、ちびりそうになりながらも、
「……あ、あの……へん……?」
と持ち前の演技力であさっての方向を指差すわたし。
そこ、さっき何もなかったじゃん!!
明らかに怪しいのだが、音楽教師が勝手に、
「そう……きっと間違えて持ってった子が、こっそり返しに来たのね……」
と解釈してくれた。
演技力の勝利。
すぐにぱんつは無事に音楽教師の手からこっそりAに返却され、
わたしとAの間には何のわだかまりも残すことのないまま、
わたしたちは東京へと戻った。
その後もわたしもAもそのことについては堅く口を閉ざし、
この事件については二度と触れられることはなかった。
それにしても、あー、センセー怖かった。
なによ、あの当時はみんな同じようなぱんつ
はいてたからいけないのよ!
グ○ゼが憎いわ!
というわけで、わたしが29年間の人生の中で行った温泉
(正確には今回は温泉じゃありませんが)で次々生まれる伝説の
第一章は、このとき生まれたのでした。
よって記念すべき第1回めのヒロインはわたしに決定。
次回もお楽しみに☆
text by 谷口芽萌(sui) |
2005.01.05 |
[ ヒロインたちの温泉伝説
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