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コラム
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2004.12.20

第6回:じゃりン子チエに逢えそうな街で 「和光浴場」

大阪下町湯けむり紀行 by 湯けむり天使

大阪というワンダーランド

大阪という街に、一般的に抱くイメージは、決して上品なものではなかろう。
事実、大阪弁といえば柄の悪さの代名詞で、毎日大阪で仕事をしている僕など、
「最近どないでっか?」
「そうでんなあ、ぼちぼちでんなあ」
「ぼちぼちやったらよろしおまんがな、こっちはもう、さっぱりわやでっせ」
などの日常の商売上の挨拶はもちろんのこと、
「あほんだら、何ぬかしとんねん、なめたことほざいとったら、しばきあげるぞ。簀巻きにして大和川放り込んだろかい」
などという物騒な表現も、フツーの堅気の僕でも立腹の際には自然に口から出る。

大阪人は概して厚顔だというイメージも強い。確かに大阪人は日本に臍が二つあると思っている。東京と大阪と。
実際は東京から見れば大阪など一地方都市に過ぎないのに、また、人口も横浜に抜かれてかなり時が経過しているにもかかわらず、東京と拮抗する都市だと夢想している。
東京に出ても、絶対に標準語に改めないのも大阪人の特徴、僕自身も同様であるが・・・・

以前与党の某大物政治家が、大阪の街を形容して「痰壺」と放言したことがあった。随分と失礼な物言いだが、かなり正確に大阪を見ている。悔しいが、言い得て妙というのが実感なのだ。
また、「大阪にはヨシモトとヤクザしかいない」という、大阪を揶揄した物言いも存在する。こんな大袈裟な与太話も、大阪の街を歩いていると、確かに吉本興業の芸人と極道に遭遇する機会が結構多いのだから始末が悪い。大阪のイメージを極端にディフォルメするならば、そんな与太話も一理あるといわざるを得ないのである。

だから大阪は厄介か?確かに厄介である。毎日仕事をしていて頭を抱えることがやたら多い。だが頭を抱える一方で、僕はこの街が好きなのだ。こんな面白い街はない。こんなにわくわくする街はない。そして、こんなに解放感が得られる街はない。
建前無用、やりたきゃやればええがな、言いたきゃ言えばええがな、本音・実質の権化がこの街にある。

最終回、大阪の街の印象を述べたのは、温泉銭湯紹介を通じて大阪の街の魅力を知ってもらいたいがためもある。今やほとんど目にすることのなくなった、裸の庶民の存在を知ってもらいたいがため。

ブランド物の服など着ることもなく下駄履きで遊び、塾になど行くこともなく家の手伝いをするような、昔は普通に見られたじゃりン子チエのような子供を、今やほとんど目にすることがなくなった。だが、決して絶滅したわけではなく、大阪の下町に残存している。今回はそんな街にある銭湯を紹介することにして、大阪下町湯けむり紀行を終えることにしよう。

庶民的な、あまりに庶民的な・・・

浪花のシンボル通天閣がある新世界。大阪で最も庶民的といえる歓楽街だ。今でこそ「スパ・ワールド」など若者や家族連れが集まる施設が建設されたために、客層も変化したが、少し前までは、おっさんしか歩いていない街だった。

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ここからジャンジャン横丁を南に下り、JR環状線を越えると西成区に入る。そこは更なるディープな世界で、遊郭が無数に立ち並び「遣り手」と呼ばれる婆さんが鎮座して招き猫のように人を呼び込む飛田新地や、ドヤと称される簡易宿舎が広がり、「あいりん地区」と呼ばれる日雇い労働者が無数に集まる地域などがある。尤も、「あいりん地区」という呼び名は行政が付けた名称で、地元民はそんな偽善的名称は使わずに、「釜ヶ崎」もしくは「西成」と呼んでいるが・・・・
いわば、洗練された都会の雰囲気など一切ない、ベタベタコテコテの恐るべき大阪そのものが広がっているのである。

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東京の地にあえてなぞらえるなら、新世界が浅草、釜ヶ崎が山谷ということになろうか。
ただし、東京のそれより、一段とディープな世界であることを保証する。自慢になるわけでもないが。
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「釜ヶ崎人情」という歌をご存知か?

ここは天国 ここは天国釜ヶ崎  とのフレーズで、知る人ぞ知るご当地ソング、路上で何人もの人が凍死し、白昼堂々と覚醒剤が売られ、ヤクザのベンツが労働者を蹴散らすこの地は地獄そのもので、何が天国か?
ところが、この地には妙な解放感があるのだ。何かとしがらみの多い世間の中で過ごしていると、何もかも捨てて逃げ出したい衝動に駆られる一瞬がある。仕事を終え、新世界界隈をたまに歩くと、抜き難い解放感に包まれることがある。
世間から逃げている人にとって、この地はある意味天国なのだ。


大阪を代表する大型銭湯

さて、和光浴場の紹介である。
お断りしておくがここは天然温泉ではない。別段天然温泉銭湯のネタ切れではなく、個性豊かさという点で、今まで紹介してきた以上のものはないと判断し、最後に、庶民的にも程がある大阪らしい地の、充実した銭湯を紹介する方が愉快だと思ったためである。
この銭湯は、西成区の北東部に位置し、阿倍野から国道43号線を西に進み、大阪市立大学付属病院の西側の路地を南に下ったところにある。JR環状線「新今宮」駅からは、徒歩10分程の距離だ。

それでは早速お邪魔してみよう。

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この銭湯の造りはノスタルジーを感じる類ではなく、近代的なものである。番台が備え付けられているが、券売機で入浴権を購入するシステムだ。
脱衣場は若干古さを感じるのだが、浴室は新しく清潔である。浴槽の戸を開けると、縦長の浴室に様々な浴槽が並ぶ。主浴槽に加え、様々な機能バス、死海の塩風呂等銭湯としては充分な設備が備えられている。
うっかりすると、それだけで帰ってしまいそうだが、よく見てみると横にも通路が伸びており、突入してみると、右手に大きな露天風呂が・・・・
旅館の露天風呂並みの広い岩風呂には、湯冷めしにくい人工炭酸泉が注がれており、ごみごみした西成の地であることを忘れさせてくれるほど。温泉地へ湯治に来たような気分である。
下の露天風呂の写真は男湯のもので、女湯の露天風呂は、らせん階段を上がった二階に造られてある。男湯と女湯はかなり構造が異なるらしく、入浴客の大半が男性であるこの地の銭湯は、男湯の設備が充実した構造となっているのもやむを得ない。
それにしても、この銭湯は広い。普通の銭湯の倍はある。

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さらに、どこまでも続くカランに沿って通路を進むと、正面にスチームサウナ、その横にはプール並みの大きな浴槽がある。純銀イオン風呂との表示があるその浴槽も、人口炭酸泉で満たされているのであるが、純銀イオン風呂なる怪し気な風呂の内容はというと、一言でいえば、湯を清潔に洗浄するシステムの一種らしい。
この浴槽はすさまじき勢いの水流が渦巻いており、ステンレスパイプに背を預け水流を身体の全面を当てると、身体が押し潰されるほど強烈なマッサージ効果がある。
普通のジェットバスは細くて強力な水流が来るが、ここは極太の水流にまさに押し潰される感覚、こんな設備、他の銭湯にはない。

純銀イオン風呂の右隣は乾式サウナ、その前には大きな水風呂。ここの水風呂の冷たさは大阪随一かもしれない。水の表面近くに靄がかかるほどである。ここまで冷たいと、もう我慢大会だ。
僕はここの水風呂に浸かるたびに、ふるえながら北大西洋に沈んだタイタニック号の乗客に思いを致す。さぞかし冬の北大西洋は冷たかったろう。


コインランドリーと同居した脱衣場

この地の銭湯の脱衣場には、必ず洗濯機と乾燥機が付属しているという特徴がある。
ドヤ街の住人には、コインランドリーと銭湯が一体化しているシステムはすこぶる合理的だ。入浴前に洗濯機に放り込み、湯上りには洗濯を終えている。この和光浴場も例外ではない。

この銭湯は、一種のサロンとでもいうべきもので、おっさん達は充実した銭湯で癒され、脱衣場のベンチで休息、実に快適そうだ。それにつけても、男湯は何時来ても満員、女湯は聞いたところによると、閑散としている時間帯が多いらしい。土地柄というべきか。

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和光浴場は充実した銭湯で、銭湯マニアの間では非常に評価が高い。西成にはすこぶる沢山の銭湯があるが、間違いなくここが最高といえよう。下町のオアシスといって過言でない。
近隣の「スパ・ワールド」で大枚をはたくのが阿呆らしくなるほどの充実振りだ。これだけの設備で360円なのだから。

和光浴場前の路地は、ほとんどじゃりン子チエの舞台となった下町の雰囲気と寸分違わない。飾り気のない小さな商店がの軒を連ねており、風呂上りにビールを飲みくつろぐおっさん達の姿が目につく。こんなささやかな幸福がたまらない。


摩訶不思議な銭湯の群れ

銭湯のるつぼ、西成の地には他の地域にはない個性的な銭湯がある。二つばかり紹介しよう。

堺筋に面して立っている今池湯は、自称「超広いお風呂屋さん」。確かに妙に横方向に広い。それもそのはず、ここは男湯と女湯の壁を取り払ってしまっているからだ。かといって混浴ではない。ここは女人禁制、男湯のみの銭湯なのである。女湯と表示されている入口を入っても、中には男しかいないので、妙な気分になる。
おっさんしか歩いていない街では、思いきって女湯をなくすのも合理的か。この地だけに通用する割り切り方だろう。

もうひとつは、西成区太子にある明治温泉
靴を脱ぎ、券売機で入浴券を購入、そして券を番台に渡すのだが、その番台が、男湯の脱衣場内にあるのだ。つまり、女性も男湯の脱衣場にはいって券を手渡すことになる。また、通路と男湯の脱衣場にはドアやカーテン等視界をさえぎるものは何もない。即ち、男湯はどうぞご自由にご覧下さい状態、いくら開放的な西成とはいえ、開放的にも程がある。

このような銭湯、僕は西成の地以外で目にしたことがない。まさしくワンダーランドである。


じゃりン子チエに逢えそうな街だからこそ

大阪の下町にある温泉銭湯紹介を通じて、大阪の各地を紹介してきた。ガイドブックに載っている大阪のイメージとは少々異なるかもしれない。ガイドブックに載っている大阪は、大半が小奇麗な観光施設のみで、大阪らしさがない。小奇麗な観光施設など、倉敷などに任せておけばよろしい。大阪の魅力はもっと他にある。
僕はガイドブックに載っているような観光施設は一向に興味がなく、下町の路地に人知れず佇む銭湯などが好きなのである。更にいうならば、下町の路地に人知れず佇む庶民が好きなのだ。
結局のところ、僕が紹介したいのは、大阪という街がごく普通に持っている魅力に他ならないのである。

最後に、随分ローカルな話題に付き合って読んで下さった方々に感謝します。
大阪は愉快な街です。そして、じゃりン子チエが遊んでいそうな下町の路地にこそ、大阪の魅力があります。ガイドブックなど捨ててしまって路地を歩いてみましょう。
大阪の路地で迷子になり、ふと見つけた銭湯に入って息をつく・・・・そんな旅はいかがでしょうか。
では、再会の日まで。   (^o^)/

text by 湯けむり天使 | 2004.12.20 | [ 大阪下町湯けむり紀行 ] | 固定リンク | コメント (3) | トラックバック (1)

2004.12.07

第5回:下町の奇跡と昭和ノスタルジー 「トキワ温泉」

大阪下町湯けむり紀行 by 湯けむり天使

チンチン電車の走る町

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大阪では阪堺電気軌道という路面電車が走る。大阪市の南部から堺市にかけて、所謂大阪の下町をのんびりと走るチンチン電車は、子供の頃、よく乗ったこともあって、随分とノスタルジーをかきたてられる。

チンチン電車は急がないからよい。信号はあるし、駅が多いのですぐに停車、自動車はどんどん追い越してゆくが、悠然としたものだ。このせわしなきご時勢に、こんなに悠然と走る電車が、道路の真ん中を占領しているのが妙に愉快でならない。急ぐばかりが能ではない。 
こんなチンチン電車は、大阪市北部の洗練された地域やビジネス街ではもはや見られず、大阪市南部の下町に残存しているのが象徴的でもある。そして、チンチン電車の走る町にこそ、素晴らしい銭湯が、キラ星のごとく並んでいる。

今回紹介する「トキワ温泉」も、そのチンチン電車の走る町に、キラ星のごとく存在する宝物の中のひとつである。

ごく普通の銭湯の外観と思いきや・・・

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阪堺線の神明町駅から徒歩すぐの場所に、トキワ温泉はある。ここは大阪府堺市、大阪市と隣接したベットタウンであり、工場地帯でもあり、大阪市南部から続く、下町風情を残す地域でもある。
トキワ温泉の建物は、比較的広い道路に面して、ごく普通に立っている。ちょっと古めの小じんまりとした下町の銭湯といった趣だが、ひとつだけ他の銭湯と異なるところがある。

さて、それは何でしょう?

別段クイズをやるつもりはなく、即座に答えを出してしまうが、正解は銭湯の象徴ともいえる煙突がないところ。
煙突がなくてどうしてお風呂屋さんの営業ができるのか?
それがここでは可能なのである。可能というよりも、煙突が不要なのである。
つまり、この銭湯では湯を沸かすボイラーや煙突が不要、言い換えるなら、湧き出る温泉が適温で、加熱する必要がないからなのだ。こんな銭湯は珍しい。

それでは早速、お邪魔してみよう。

昭和のノスタルジー・昔懐かしき番台の風景

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入口脇に設置されている看板を目にしながらのれんをくぐると、正面に券売機が、あれま、意外に近代的と思いきや、入口の戸をあけると一気に昭和のノスタルジー、昔懐かしき日本の銭湯がそこにある。

かつて銭湯といえば、番台がつきものだった。
その昔、テレビドラマ「時間ですよ」で、江戸家猫八が毎回故意に女湯の戸を開け、若い裸のモデル嬢が「キャー」、番台の上の森光子が「いつも相すみません」とモデル嬢に謝罪し、猫八をたしなめるといった光景が放映されていた、あの番台が・・・・
今となっては、番台など知らない子が多いんだろうなあ。

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この銭湯の脱衣場の造作と付属品は、まるでタイムスリップしたかのような気分にさせてくれる。年季が入って黒光りしている木質の番台、同様の木材が使用された男女の仕切り板にはめ込まれた宣伝文句付き鏡、天井にある二枚羽根の煤けた扇風機、3分間20円の旧式ドライヤー等々・・・・
所々リニュアルされ、壁が白く塗り直されているところなど、少々物悲しいのだが、基本は古い銭湯のまま保存されており、意識せざる下町民俗資料館とおぼしき雰囲気。そんな雰囲気を味わうだけでも愉快になる。

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驚異的な大量源泉かけ流し

懐古趣味にばかり走っている場合ではない。トキワ温泉の魅力は昭和ノスタルジーばかりではなく、最大の魅力は、何といっても天然温泉、それも豪快な源泉かけ流しという驚異的大判振る舞いにある。
各地の温泉地にはそんな施設は多々あろうし、それは別段驚くべきことではない。ところがここは、大阪の地、それも住宅と工場しかない下町の地に、天然温泉が浴槽にザバザバと絶えることなくかけ流されているのは奇跡ともいうべきものだ。

ここは元々、ごく普通の銭湯であったが、8年前に温泉を見事に掘り当て、天然温泉トキワとしてリニュアルオープンした由、大枚をはたいて温泉掘削に挑んだオーナー氏の心意気を買いたい。

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個性的な三段浴槽と天然温泉カラン

浴室は広くはないが、浴槽類は合理的に配置されている。サウナが脱衣場にまではみ出した造作になっているのは、後年建て増ししたなごりだろう。入口付近に水風呂、奥には個性的な三段式の主浴槽、その横にはジェット、ジャグジー類の機能バスが設置され、水風呂を除く全ての浴槽に源泉がかけ流されている。

なんといっても目を引くのは上・中・下と順番に湯が下る仕掛けになっている三段式主浴槽だ。上段浴槽の上の三角形の注ぎ口から源泉が豊富に注がれ、手を触れてみるとかなり熱い。45度ぐらいありそうな感覚だ。下の段に下りるほど湯温は下がるが、それでも42度~43度ほどはあるような結構熱い湯である。施設側の説明では上段から順に43度、42度、41度となるらしいが、体感温度は、もっと高いような感じがする。

三段とは言え、上段は事実上湯溜めで、人が入れるほど広くない。中段と下段に、好みの湯温に応じて入浴することになるが、熱い湯の苦手な僕は、下段の浅い部分に、額に汗しながら浸かり、時折水風呂で身体を冷やしつつ入浴を重ねるばかりであったが。

天然温泉目当てで、遠隔地からわざわざ出向いてくる僕のような酔狂な人間もいるが、利用者の大半は地元の人とおぼしき中高年、銭湯がすっかり社交の場となっている。熱くなれば、浴槽の淵に腰掛けよもやま話、庶民の実態を知りたければ下町の銭湯へ行けばよい。係数では現れてこない庶民の本音が聞けるだろう。

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やや黄色がかったほぼ透明の湯は、大量にかけ流され、湯船からオーバーフローしているためすこぶる清明で、単純泉ではあるがかすかに硫黄臭のする結構なものである。贅沢な湯の使い方だ。これほど贅沢に湯を使用して360円の銭湯料金で済むのだから、感謝感激、随分得をした気分になる。

ここの湯は、僕にはかなり熱く感じるのだが、それでも「今日はぬるい」という常連客がいる。夏場に利用したため、熱いのは少々苦痛であったが、冬場は身体が温まって最高だろう。慣れれば癖になりそうな湯である。
日々微妙に湯温が異なるのは天然温泉の証、熱いままなのは加水などしていない証、地中から湧き出した湯を天然のまま提供してもらえる有難さに、改めて感謝したい思いだ。

また、ここではカランから出る湯も天然温泉であることを記しておかねばならない。温泉地並みの潤沢な湯の使い方で、これまた感謝感激だ。煙突のない銭湯であると書いたが、湯を沸かす必要のないこの銭湯では、湯はすべて天然温泉なのである。

由緒正しき富士山の壁画も

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かつて、銭湯壁画といえば、タイル地に描かれた富士山が定番であった。関西人である僕は、東京の銭湯壁画の傾向はよく知らないのだが、場所柄やはり富士山が主流ではないかと思う。そのような由緒正しき銭湯壁画が、トキワ温泉には存在する。

銭湯の壁画を眺めるのは愉しいものだ。湯舟に身を沈めながら、壁画を見るのが僕の少年時代からの性癖で、幼少時に見た銭湯の壁画は今でも鮮明に思い出すことができる。森と湖と水車小屋の風景は、僕にとっての桃源郷の原型となっている。

下町の奇跡を支える庶民

住宅地のど真ん中に、24時間源泉を豊富にかけ流した温泉銭湯がある奇跡、ガイドブックにもほとんど登場しない、一種の大阪の‘秘湯‘とも言うべきトキワ温泉、ここは、熱心な常連客によって支えられている。
取材のため、営業時間の30分前に赴いた際も、下足箱の前に沢山の常連客が入場を待ちわび、3時の営業時間前に入浴させて欲しいと交渉する人もいるほど。皆さん、心底、このトキワ温泉が好きなのだ。

取材を終えて脱衣場から外に出た際に、待ち構えていた常連客から、口々に言われた。

「ここは、ほんまにええ湯やで」
「ここの湯に浸かると、関節の痛みが消えたわ」 
「ほんまにええ温泉やから、ええようにちゃんと書いといてや」

水道料も馬鹿にならず、ポンプの補修をすれば150万円、ボイラーなら300万円もかかるこの業界、維持するのは並大抵ではなく、この下町の奇跡を支えるのは常連客の庶民以外にない。トキワ温泉で癒された庶民が、一方ではトキワ温泉を支える。
幸いこのトキワ温泉、現在は随分繁盛しているとみえるが、この庶民の桃源郷を是非とも後世に残したいものだ。微力である僕など、時折入浴して、このような紹介コラムを書くだけだが、一人でも多くの人が、このような温泉銭湯の魅力に気づいてくれればと思う。

庶民に愛されるトキワ温泉、常連客の生の声を聞きながら、僕もこのような銭湯を愛し続けますよと、こっそり力こぶを入れながら帰還した次第であった。

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text by 湯けむり天使 | 2004.12.07 | [ 大阪下町湯けむり紀行 ] | 固定リンク | コメント (3) | トラックバック (0)

2004.11.22

第4回:ぬる湯の源泉風呂は極楽至極 「志宜野華厳温泉」

大阪下町湯けむり紀行 by 湯けむり天使

大阪は銭湯のるつぼ

大阪府には一体公衆浴場がいくつあるのだろうか。これは数年前のデータであるが、浴場組合傘下の銭湯だけで、1,390店に及ぶらしい。東京都が1,273店とのことで、人口比も考慮に入れると、大阪府の健闘が目立つ。1,390店のうち、大阪市内が697店で、約半数が市内に集中していることになる。大阪市の銭湯密集度合いたるや、日本一かもしれない。

銭湯は新興住宅地にはない。古くからある人口密集地である都会の下町に集中しており、即ち庶民が銭湯を必要としていたということ。尤も、最近は家風呂の充実と、スーパー銭湯の攻勢で町の銭湯は苦戦を強いられており、廃業に至る銭湯が目立つのは実に寂しいことである。
町の銭湯も、時代の流れだからやむを得ないと指をくわえて見ているわけではなく、様々な工夫を凝らして家風呂がある人にも銭湯に足を運んでもらおうと努力をしているのは、様々にリニュアルされた銭湯を見ればよくわかる。客を呼ぶための経営努力には涙ぐましいものがある。

ところで、他店との差別化で、最も有効なのはやはり天然温泉だろう。スーパー銭湯では天然温泉は当たり前となっているが、通常の銭湯で湯船を天然温泉で満たせるというのは、かなり優位に立てる条件だ。そのためには多額の掘削費用を要するのだが・・・・
さすがに銭湯の多い大阪市内でも、天然温泉ともなると極めて数は限られる。このコラムではその中でも個性の強い温泉銭湯を紹介しているが、今回紹介しようとする「志宜野華厳温泉」も個性豊かな温泉銭湯で、僕もたびたびお世話になっている。
1992年に営業を開始しているから、20年あまり経過、華厳温泉のネーミングは、華厳の滝にちなんでいつまでも湯が出ますようにとの願いが込められている。

住宅地に忽然と現れる建物

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華厳温泉は大阪市城東区の住宅街に位置しており、JR学研都市線鴫野駅から徒歩5分といった位置にある。建造物は会社の事務所もしくは公民館といった趣で、温泉の風情とは遠い。規模も大きなものではなく、個性的な建物でもないが、住宅街には奇をてらう建物はむしろ不釣合いで、これでよいのだろう。
また、城見通りから路地に入ってすぐに忽然と建物が現れ、看板がなければ下手をすれば見逃してしまいそうだ。しかし、ごく普通の住宅街に立派な天然温泉が湧出している意外さがたまらない。

それではさっそくお邪魔してみよう。

靴を脱ぎ、カウンターの反対側にある券売機で入浴券を購入し、カウンターへ持参するシステム、狭いながらもベンチと自動販売機コーナーがあり、待合いも可能である。狭い空間を合理的に利用している。
カウンター横には温泉分析表が掲げられ、天然温泉をアピール、また、脱衣場もやや手狭ではあるが、清潔感あふれ、ここも合理的なレイアウトとなっている。

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合理的かつ個性的な浴槽配置

ここの浴槽は随分と個性的だ。ガラスドをあけて浴室内に足を踏み入れると、長大な主浴槽に圧倒される。
通常、浴室の中央に浴槽が配置され、洗い場は周囲に配置されるのが関西方式で、華厳温泉も中央に浴槽が配置されてはいるものの、やたらと長大なその造りは他に類を見ないものである。もちろんそこには天然温泉が満たされており、若干鶯色の少々熱めの湯には一度に相当数の人数が入浴できる。簡素だが、極めて合理的だ。
また、浴槽の淵が低いのも特徴的、淵に腰掛けて話をしながら休息といった客も目立つ。湯治を兼ねて常時利用している地元の高齢者には利用しやすい造作ではなかろうか。天然温泉には、ジェットやジャグジーや、様々な機能バスは特に必要ないのではないかと思われ、この華厳温泉のごとく簡素で合理的なレイアウトに好感を抱いた。

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主浴槽の奥には電気風呂と水風呂が連なる。ここにはサウナの類はないのに何故水風呂が?と疑問に思う人は、風呂の快楽に目覚めていない人なのだろう。サウナで汗をかいて、その後冷たい水風呂にドボンというのが典型的な水風呂利用法だろうが、サウナでなくとも、湯に浸かり少々長湯すれば体温は上昇し、汗もかく、一度水風呂に入ればまた湯に入りたくなる。ましてやここは天然温泉なのである。カラスの行水では勿体無い。長風呂派の僕には、水風呂の存在はすこぶる有難い。


魅惑の露天源泉浴槽

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内湯の横に露天風呂への入口がある。この銭湯は、脱衣場といい、浴室といい、浴槽といい、全ての面で縦長のレイアウトであり、露天風呂も同様で、縦長というよりむしろ、鰻の寝床である。
写真を見てもわかるように、露天エリアには極めて縦長の浴槽以外には何もなく、簡素極まりない。浴槽の淵もすこぶる細いもので、奥へ行くには浴槽の中を歩いてゆく以外に方法がない。縦には長いが、横幅はすこぶる狭いため、先客が手前にいると、失敬失敬と、先客の伸ばした脚を縮めてもらいながら奥へ進まねばならない。少々厄介だが、常連客には日常のことで、誰も嫌な顔などしやしない。
一番奥の壁には手書きで「源泉」と表示されている。今のご時勢に手書きというのがまたよろしいもので、温泉は安らぎと癒しを得るところ、そのアナログ調が妙にうれしく、ほのぼのとくつろぐことができる。装飾など一切ない、簡素極まりないこの浴槽は、まるで東北の共同湯に来ているかのような感覚に陥るほどの魅力を秘めている。

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この源泉浴槽は源泉のかけ流しであり、湯が浴槽の手前の淵からオーバーフロー、パイプから浴槽に注がれる湯を口に含んでみると、ナトリウム-塩化物温泉と表示されているが塩味はほとんどなく、僅かに金気がする。香りは金気臭とほのかな硫化水素臭で、あまり癖のないものである。
どこの源泉かけ流し浴槽でも同様だが、浴槽内の湯と、注がれている湯の匂いはやはり少々異なる。これは注がれている源泉の湯が、浴槽内の湯に比べて新鮮であるということで、言い換えるなら、湯が若いということ、ここの源泉浴槽でもパイプから注がれる湯の香りは実に香しく、天然温泉を実感するものだ。
源泉浴槽の湯が満たされている部分は、黒褐色に色素が沈着、見た目はほとんど透明の湯である一方、様々な温泉成分が含まれているためだろう。以前は濁り湯だったとの情報もあるが、僕が経験した限りでは、現在湯そのものにはほとんど色はない。

なお、飲泉は不可の模様。源泉注ぎ口に、「飲用されても一切責任は負いません」との手書き文字が表示されているのはご愛嬌。このように書いておかないと、源泉だから大丈夫と飲んでしまう輩が沢山いるのだろう。


脚を伸ばしてゆ~らゆら

幅が狭い浴槽であるので、脚をのばすと反対側の淵にかかる。頭を淵に預けて足を反対側の淵にかけると、まことに至福のポーズとなる。湯が40度もないぬる湯であるのがこれまた好都合で、長湯には最適の環境だ。
ボケ~っと空を見上げて湯に浸かると、日ごろの疲れが抜けてゆく感覚で、少々ぬる過ぎるとの意見もあるそうだが、疲労回復にはこのぬる湯が丁度良い。
常連客の大半が長時間この湯に浸かり、世間話に余念がない。よそ者の僕はただ耳を傾けるばかりである。この源泉風呂のファンは結構多く、この湯に浸かるとよく眠れ、朝まで目が覚めないという感想をよく耳にする。心地よい疲労感とでも言うべきか。

愉快なのは、至福のポーズで入浴中、空を見上げていると、頻繁に飛行機が見えること。ここは大阪空港の着陸経路の真下に位置するため、うまい具合に真上に飛行機を目にすることになる。伊丹市で育った僕は、散々飛行機の騒音に悩まされてきたが、ここで見る飛行機は優雅なものだ。


素晴らしき都会の湯治場 

大阪市内の温泉銭湯のうち、最も湯治場の雰囲気を醸し出しているのがこの志宜野華厳温泉だと思う。ここは最近の銭湯に充実しているジェットやジャグジーの類の機能バスやサウナなどを売りにしておらず(主浴槽の奥に2連のジェットとジャグジーがささやかに付属しているのみ)、簡素で合理的な浴槽があるばかりだ。この飾り気のない浴槽に、源泉がかけ流されており、温泉の湯を堪能するには必要かつ充分である。それどころか、大阪という大都会に、こんな鄙びた湯治場のような温泉があるということ自体、信じられない思いがする。

温泉に求めるものは人それぞれ、機能満載のスーパー銭湯を好む人もいるだろうし、高級旅館での豪華絢爛お食事付き温泉ばかり利用する人もいるだろう。けれども塩素臭が鼻につき始めると、スーパー銭湯からはどうしても足が遠のくし、高級旅館へは滅多に行けるものではない。
温泉はやはり泉質と考える僕は、小さくても、質素でも、湯さえ良質ならばまったく不満はなく、むしろ高級旅館の広い循環風呂に違和感を覚えるものだ。
華厳温泉は、大都会大阪において360円という銭湯料金で、長時間良質の湯に浸かることができ、さらに鄙びた湯治場の雰囲気も味わうことのできる都会の桃源郷とも言える温泉銭湯なのである。

どうかこの華厳温泉においては、将来リニュアルの際にも、源泉かけ流しにこだわった施設のままにしてもらいたいと切に願う。利用者の勝手気儘な希望に過ぎないのだが・・・・
余計な設備を付けたり、浴槽の規模を拡大したりすると、カネもかかるし湯も悪くなる。温泉は何も足さない、何も引かないのが一番良いと、源泉原理主義者である僕は勝手気儘に考える次第である。

text by 湯けむり天使 | 2004.11.22 | [ 大阪下町湯けむり紀行 ] | 固定リンク | コメント (3) | トラックバック (0)

2004.11.09

第3回:会社帰りに良質の湯を堪能 「天然温泉田辺」

大阪下町湯けむり紀行 by 湯けむり天使

下町は銭湯の宝庫

このコラムで僕が紹介しているのは、大阪という都会地にある天然温泉が湧く銭湯である。東京とは比較にならないが、大阪といえど大都会に違いなく、けっこう広いものなのだ。都心部から場末の地まで、言い換えるなら、背広ネクタイ族やハイヒールを履いたOLが闊歩する北浜や淀屋橋のビジネス街、若い男女が着飾って集う心斎橋のアメリカ村、また、冬になると何人もの浮浪者が路上で凍死する西成の釜ヶ崎など、大阪は様々な顔を持つ。そして、それぞれの地に個性的な銭湯があるのが興味深いところ。
ところで銭湯は都心部には比較的少なく、圧倒的に下町といわれる地域に多い。大阪では生野区や西成区が銭湯密集地帯といえるだろう。このコラムで紹介する温泉銭湯も大半が下町に位置する。銭湯が庶民の生活に密着しているがゆえであり、飾り気のない格好で飾り気の無い銭湯へ通うという生活様式は、庶民の生活場所である下町でこそ似合うというものだ。

今回紹介しようとする「天然温泉田辺」もやはり下町にあるといってよいだろう。
すぐ前を走る長居公園東筋が拡張され、地下鉄の駅ができる以前は、この地はもっと下町の雰囲気を濃厚に残していたらしいが、現在でもすぐ横の田辺駅前商店街あたりにそのなごりを残している。

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アクセス抜群の立地条件

「天然温泉田辺」は、大阪市東住吉区に位置する。前月に紹介した「ふれ愛温泉矢田」も東住吉区なのだが、距離は相当離れており、客層もかなり異なる。こちらは下町とは申せ、立地条件の優位さから地元民のみならず、ビジネスマンの利用者も結構目立つのである。
交通の利便性ではこの「天然温泉田辺」が圧倒的に優位に立つ。なにしろ、地下鉄谷町線の田辺駅から徒歩30秒という至近距離にあるからだ。まさに駅前留学ならぬ駅前湯治が可能な場所、こんなアクセス抜群の天然温泉は珍しい。仕事を終えた帰り道、ひとっ風呂あびてさっぱりするにはすこぶる便利なのである。

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目を引く近代的建造物

下町にある銭湯とはいえ、通常の銭湯の雰囲気とは異なり、スーパー銭湯に近い偉容の建造物だ。清潔感あふれる近代的建造物の地下には駐車場もあり、車でのアクセスも可能。ただ、駐車料金有料(200円)には少々不満を覚える。
路地裏にひっそりと佇む銭湯にもたまらない魅力があるのだが、スーツを着たまま入場しても違和感がないこのような銭湯もまた便利で良いものだ。

それでは早速お邪魔してみよう。

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正面に誇らしげに設置されているにラドン発生装置を目にしながら、暖簾をくぐるのではなく、自動ドアを開けて入場。入場するなり下駄箱の数の多さに圧倒される。総数367個、そのかなりの部分が使用中である場合が多いのにも驚くが、アクセス抜群・設備満載・更に銭湯料金で天然温泉であるならば人気があるのも当然で、そりゃそれだけの数も必要だろう。それにつけても明るい玄関で、心地好い。
靴を脱いであがると券売機があり、入浴券を購入してカウンターへ持参する近代的システム。最近増えてきた軽食と喫茶のコーナーもしっかり付属している「湯遊び広場」風の造作である。
近頃、伝統的な番台形式の銭湯、随分減りましたなあ。時代の流れなんでしょうが少々寂しいような・・・・

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さて、ここの料金体系は大阪府の銭湯料金の360円には違いないのだが、様々なオプションがある。240円余分に支払うことでサウナ付き源泉露天風呂に入浴できる600円のコースがあり、これがまた良質の天然温泉を堪能でき、実にもって捨てがたいのだ。
このコラムで僕は360円のパラダイスを紹介すると書いたが、ここのみ600円の施設を一部紹介することになる例外を、ご容赦願いたい。360円でももちろん天然温泉を味わうことができ、大半の機能バスは360円のエリアに集中しているため、常連客の大半は通常の銭湯料金で入浴している。それだけでも通常の銭湯より格段に割安感がある。
ただ、大阪では珍しい個性のある源泉露天風呂を紹介せずして、ここの魅力を語るのは難しいために、600円のコースを併せて紹介する次第。

採光性抜群の明るい浴室

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温泉を掘削し、現在の建物で「天然温泉田辺」となったのが平成3年であるから、既に13年の歳月が経過しているにもかかわらず、外部・内部とも全く老朽化の兆しが見られないのには感心させられる。特に、清潔感あふれる浴室内には好感が持てる。
浴室は広くかつ明るい。天井の中央部分がガラスになっているため採光性が良く、白を基調とするタイル地の壁と綺麗に清掃された浴室の床が印象的。浴室は清潔なのが一番だ。男女の仕切り壁には観葉植物が綺麗に並べられており、天井からの陽の光と相俟って、すこぶる美しい浴室に仕上げられている。
浴室内には白湯の浴槽と天然温泉が満たされた大きな浴槽が男女の仕切り壁に沿って鎮座、手前から電気風呂、深い白湯の主浴槽、奥に天然温泉浴槽が連なる。
ここではなんといっても円形の大きな天然温泉浴槽が主役で、座り風呂及び寝風呂まで付属、しかも超音波気泡風呂ときており、浴槽に客が絶えないのもむべなるかな。内湯の天然温泉は循環の湯だが、僅かに塩味のする、ナトリウム-塩化物温泉のやや褐色の湯は天然温泉を実感させてくれる。

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奥に進むと、半地下ともいうべきエリアがあり、ここは機能バスの集積地。向かって右から水風呂、スチームサウナ、ラドンバス、打たせ湯と続く。何でも揃う機能満載の銭湯だ。
汗を流すだけなら、有料の乾式サウナを利用せずとも、ラドンバスやスチームサウナで充分代用が利く。打たせ湯には、一人二回までとの注意書きがあり、混雑時に独占を避けるためか。確かに何時見ても誰かが利用している。
これだけの機能満載、しかも天然温泉付きで360円なのだから、何時来ても大盛況なのも当然というべきか。
一度空いているときにのんびりと入浴しようと、朝5時半に起床し、大阪まで高速道路をぶっ飛ばして6時半頃に入浴した経験があるが、時既に遅し、夕刻並みの混雑といった有様であった。尤も、日曜日の朝だったからかもしれないが。

濃厚な源泉かけ流し露天風呂

二階に上がると、ここは所謂ロイヤルゾーン、600円でサウナと源泉露天風呂を堪能できるエリアだ。
さほど広くはないが、5人~6人は入れる岩風呂と大きな水風呂が並ぶ。露天風呂とは言え、周囲は建物に囲まれ見晴らしは利かないが、椅子や浄水器も設置され、入浴客が一階部分より格段に少ないため、ゆっくりとくつろげるエリアとなっている。

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この露天風呂の湯は良質である。注ぎ口から湯船に注がれる湯は豊富で、源泉は54度と高温だが利用温度は42度くらいだろうか。やや熱めに感じられるが、すぐ横に立派な水風呂があるのがこれまた有難いもので、火照った身体を時折冷ましながら何度も源泉の湯に浸かるのは、快適の一語に尽きる。
温冷交互浴は入浴時の快楽のひとつだが、それを良質の天然温泉で行う贅沢はたまらない。

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ナトリウム-塩化物温泉は塩味に加え、若干の苦味を有し、香りがまた結構なものである。温泉に入り慣れてくると、肌と鼻が妙に肥えてきて、肌触りと香りを味わう癖がつくものだ。注ぎ口に付着する茶色の析出物が豊富な鉄分を示し、事実、金気臭のみならず僅かに硫化水素臭も合わさった香ばしい匂いは、だし汁のような、僕の感覚では一種カツオだしの風味にも似たもので、大阪のど真ん中でこのような泉質の湯に浸かる幸福をしみじみと味わうことができる。
源泉露天風呂と一階の天然温泉浴槽の湯との大きな相違点は、この香しき匂いの有無であり、両者の湯の質的差異は果てしなく大きい。やはり温泉は源泉そのままに近い新鮮なものが最高だ。高張性の湯もまた貴重なもの。
高い料金を支払って、わざわざ遠くの温泉地へまがいものの湯に浸かりに行くお間抜け旅行など愚の骨頂、温泉好きの大阪の人は、一度この湯へ浸かってみて欲しい。身近に優れた温泉が湧いていることを実感するだろう。

身近な駅前温泉の魅力

僕のようにカネ・ヒマの不足した温泉好きにはこの「天然温泉田辺」、まことに有難き存在で、勤め帰りのみならず、休日にも足を伸ばすことがある。自宅付近にスーパー銭湯はあるが、例外なく塩素混入循環温泉ばかりで、近頃とみに泉質にうるさくなったこの身には、ここの湯のように、だし汁の風味が香るような、天然温泉を実感させてくれる湯にどうしても惹かれるからだ。
また、僕のような先天性温泉依存症のごとき人間ではなく、ごく普通のサラリーマンにもこの銭湯は有意義であり、そのアクセスの良さを利用して昼間からこっそりと湯に浸かる御仁も結構居られる。
例えば、かつて僕の同僚で、現在は熊本に転勤になったⅠ橋氏(自主規制)や、姫路から大阪まで新幹線通勤をしているH谷川氏(自主規制)など、深酒の翌日は昼間からここで酒抜きをするのが日課であったものだ。大きな声では言えないが、仕事中の息抜きはマンガ喫茶よりむしろ銭湯の方が、罪悪感も快楽も格段に上である。

スーパー銭湯並みの機能を有し、なおかつ優れた泉質の温泉を有する「天然温泉田辺」、その明るく洗練された雰囲気は前回紹介した「テルメ龍宮」の浪花節的雰囲気とは明らかに異なる。また、雰囲気がそれぞれ異なるから愉快なのである。
サウナゾーンや駐車場を有料にする商魂たくましさにはあまり好感を持てないが、大阪市内では最も個性的な湯を、交通至便な駅前にて僅か600円で提供していることで好しとしよう。
それにつけても、駅前にこんな良質の湯が湧いているとは、大阪の街も奥が深い。

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text by 湯けむり天使 | 2004.11.09 | [ 大阪下町湯けむり紀行 ] | 固定リンク | コメント (5) | トラックバック (0)

2004.10.14

第2回:都会のパラダイス 「天然温泉テルメ龍宮」

大阪下町湯けむり紀行 by 湯けむり天使

安治川のほとり今昔

宮本輝原作の「泥の河」という小説がある。映画化もされたのでご存知の方もおられると思うが、昭和30年代、川沿いの食堂に住む少年と、廓船に住んで川を行き来する少年との交流を描いたもので、胸塞がれる印象的な小説である。当時日本はまだ貧しかった。舞台となった安治川はその後、高度成長のあおりをまともに受け、文字通り泥の河となってゆく。
現在安治川周辺は、大きく変貌した。海遊館が河口に建設されてから既に相当の年月が経過し、西岸にはユニバーサルスタジオジャパンが開業、工場や倉庫しかなかった安治川周辺は奇麗に整備されて、今や大阪の観光スポットとなり、かつての安治川周辺とは隔世の感がある。

安治川の東側は大阪市港区、様々な近代的施設が建設されているとはいうものの、今でも下町の雰囲気を濃厚に残す地域である。今回紹介する「テルメ龍宮」も、そんな下町に位置する。やはり銭湯は下町が似合う。

目を引くパラダイス風建造物

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地下鉄中央線朝潮橋駅から徒歩15分、国道172号線から東に入ってすぐに、大きな建物が目にとまり、普通の町の銭湯より一回り大きな威容を示す。伝統的な銭湯の風情とは異なり、そこはかとなく妖しげな雰囲気、下手すれば場末のファッションホテルに見えなくもないが、屋号と相俟って、龍宮城を想起できなくもない。それにつけても、屋根のてっぺんに温泉マークとは随分と個性的で、入場前から胸躍るというもの。

それでは早速お邪魔してみよう。

番台方式ではなく、券売機で入浴券を購入し、カウンターで手渡す近代的システム。カウンターの手前に階段があって二階に通じており、上がってみると、休憩所兼食堂のスペース、常連客がひっきりなしにカラオケをがなる光景を目にすることになる。二階部分は広く、休息場所とは別に、ふすまが閉められた小部屋もあり、小宴会なら可能なスペースだ。これは有料の個室休憩所であるらしい。天然温泉が湧く「テルメ龍宮」で宴会というのも、一興でありますぞ。

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風呂あがりにビールでも飲み、カラオケもといった生活様式が板に付いている年配の常連客の姿を見ると、この人達にとって、ここは良い憩いの場なんだろうなと思う。先に紹介した「ふれ愛温泉矢田」も、優れて庶民の憩いの場であるが、ここは「探偵ナイトスクープ」の桂小枝探偵が面白おかしく紹介するような、一体これから何が出てくるのかハラハラドキドキのパラダイスに近い。どちらも大阪的で、甲乙つけ難い。

個性的機能てんこ盛りの設備群

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脱衣場は平均的な広さであるが、浴室はさすがに広い。広いだけでなく、設備の多様さに圧倒される。
浴室に入ると、中央に浅深主浴槽が鎮座する関西方式、この主浴槽に天然温泉がなみなみと注がれている。湯を舐めてみるとかなり強い塩味がし、褐色もしくは鶯色がかった色合い、循環の湯なれど、源泉は相当濃厚なものではないかと想像がつく。その奥にはジェット浴槽と電気風呂が連なる。水風呂もあるがやや小さめ、乾式サウナは有料というシステムだ。

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ここで、心遣いが嬉しい特徴的な設備を紹介しておこう。

脱衣場に、浴室に面して37インチ大画面のテレビが設置され、浴室内から見ることができる。主浴槽に浸かったまま客が一斉に脱衣場の方を向いている奇観が見られるのはそのためである。日本シリーズやワールドカップの佳境の場面なら、さぞかし壮観だろうなと想像すると愉快になる。

また、スチームサンソ室なる設備も目を引く。これは通常のスチームサウナより酸素の量を増量して呼吸しやすくしたオーナー氏の心遣いらしい。酸素を増量すると健康増進に役立つのかどうか、正直言って少々怪しいのだが、ここは宣伝を信じておこう。曜日によって香りが異なるというのも細やかな心配りである。

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写真で見えるカランに注目して欲しい。通常の銭湯は冷温(青)と高温(赤)の二つがあるだけだろう。ところがここは三つ、適温・冷温・高温とあり、適温のカラン一つで給湯できるよう工夫されている。それなら適温のカラン一つだけあれば充分ではないかと突っ込みを入れたくなるが、余計な突っ込みはやめて、ここはその気配り心配りを感謝しておこう。
また、鏡に付着している円形の小さな鏡も特徴的だ。これは拡大鏡で、これもオーナー氏のこだわりらしい。確かに髭を剃るとき便利だ。細部に至るまで、涙ぐましいまでのこだわり満載である。
こんな設備、他の何処にもない。

注目の露天風呂B級壁画

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うなぎの寝床の如き小さな露天エリアが付属し、そこには天然温泉浴槽と、バスクリン風呂なる一人用の極めて小さな浴槽が一つある。隣に天然温泉浴槽があるのに、わざわざ貧弱なバスクリン風呂に入るような酔狂な御仁など・・・・それが居るのである。見ていると、気持ちよさそうに入浴している老人がちゃんと居るから世の中わからない。

露天エリアでの注目は、何と言っても、オーナー氏の親戚筋にあたる絵心のあるお方がお描きになった壁画だろう。
一目見てプロの絵描きの作品でないとわかる。なにもこの絵を貶めて言うのではない。何とも印象に残る壁画なのである。渓流で湯浴みする女人を描いた絵なのだが、渓流部分はまあよろしい、こちらを向いて立っている女人の顔が、狐に見えてしまうのは僕だけだろうか。
とにかく大阪の銭湯壁画の中では最高に個性的なもの、ぜひとも一度鑑賞して頂きたい。愉快になれること請け合い。残念ながら、露天風呂は男湯のみで、女性は鑑賞できませんので悪しからず。

なんと地下室もあるでよ

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脱衣所から地下に降りる階段があり、降りていくとなんと地下にも浴槽が・・・しかも結構広い。白湯のジェットのみならず天然温泉浴槽もジェットという大サービス、大きな水風呂もあり、テレビまで見ることができる。これでもかという、めまいしそうなほどの機能満載・サービス満点振り、恐れいりました。

しかし、ここの目玉はやっぱり天然温泉、地下室入口に源泉の飲泉所があり、飲んでみると強度の塩味と激しい金気臭、地下1500mから汲み上げた53・9度のナトリウム塩化物強温泉の源泉は強い印象を残した。食塩泉は所謂”熱の湯”、冬場はすこぶる身体が暖まることだろう。この温泉の泉質だけをとってみても、「テルメ龍宮」、ただものではない。キワモノではなく、正真正銘のパラダイスだ。

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この素晴らしき大人の遊園地

このコラムを書くについて、オーナー氏のご子息にお話を伺った。銭湯経営の苦労話から業界の内幕まで。お話を聞いて、また入浴してみて感じることは、熱意が無ければ到底維持できないということ。設備一つ一つを見ても、オーナー氏の強い熱意とこだわりがひしひしと感じられ、事実、大阪では最も個性的な銭湯の一つとなっている。他店との差別化を図るため天然温泉掘削に挑む冒険的姿勢など、敬意に値する。
ここでは3時の営業前から、地域のお年寄りが入口に列をなしている。利用者は過去の絶頂期と比較すると減少しているようだが、まだまだ捨てたものではない。僕も色々銭湯を見てきたが、「テルメ龍宮」ほど個性豊かな銭湯にはお目にかかったことがない。このような個性的でかつ内容のある温泉銭湯は、町のオアシスなのだ。僅か360円で大人が結構長い時間を愉快に過ごし、心身ともに癒すことのできる空間は、銭湯を置いて他にない。
町の銭湯がどんどん消え行く昨今、この素晴らしき大人の遊園地を、大阪の貴重な有形文化財として保護すべきではないかと夢想した次第であった。

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text by 湯けむり天使 | 2004.10.14 | [ 大阪下町湯けむり紀行 ] | 固定リンク | コメント (5) | トラックバック (0)

2004.09.25

第1回:庶民の桃源郷 「ふれ愛温泉矢田」

大阪下町湯けむり紀行 by 湯けむり天使

湯けむりを目にするたび、胸の鼓動が高まり身も心もとろける感覚に陥ってどうにもなりませぬ。
これは若い頃からの性分でありまして、以前は随分若年寄扱いされたもの。近年その性癖が一段と強まった感が・・・・やはり歳なのでありましょうか。
湯けむり天使と申します。以後しばらくお付き合い下さいませ。

大阪温泉銭湯めぐり

さて、なぜ大阪温泉銭湯めぐりであるか?

僕は秘湯好きである。されど、自然の懐に抱かれた山の湯に浸かってみたい衝動に駆られながらも、やはり現実を考える。社会人として、二児の父として。長期休暇など取れば、会社にある僕の机はなくなるだろうし、家族からは何と酔狂な親父かと白眼視されること必定だろう。
されば、この湯けむりに焦がれた身体をどうするのか、近場の安上がりな湯けむりに身をゆだねるしかないではないか。

このシリーズで紹介する温泉銭湯は大阪市内にあって、天然温泉が湧く素晴らしい銭湯ばかりである。ただしスーパー銭湯は除外している。スーパー銭湯の中には優れたものもあるが、その大部分が、大きな浴槽に満たすだけの湯量が不足するため加水・循環・塩素風呂化しており、僕の嗜好に合わないからだ。
片や、銭湯の大半は下町にあって、入浴してみるだけで、そこに暮らす人々の生活の息遣いまで感じ取ることができ、意外や意外、規模の小さな銭湯ほど、優れた泉質の温泉で満たされている場合が多いのである。
そんな下町のパラダイスを見逃す手はない。会社の帰り道、スーツを着たまま「秘湯」めぐり、360円のパラダイスを紹介してみよう。

煙突と赤いのぼりが目印

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今回紹介するのは、大阪市東住吉区にある「ふれ愛温泉矢田」。矢田生活協同組合が運営する温泉銭湯である。昭和63年に温泉を掘り当てて以来、朝6時から深夜12時まで、年中無休で営業を続けており、その勤勉な営業姿勢には敬服させられる。
近鉄南大阪線矢田駅から歩いて10分、「ふれ愛温泉矢田」との電光板の文字が記されている煙突と、風にたなびく沢山の赤いのぼりが目印、ここから大和川は程近い。大阪でもこのあたりは随分と下町である。

それでは早速お邪魔してみよう。

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大きなのれんをくぐるとすぐに、券売機が目に入る。下足箱に靴を入れ、扉をあけるとカウンターがあり、入場券を渡すシステム。扉の前には手書きの温泉分析書が堂々と飾られ、天然温泉をアピール、この手書きの分析書、実に貫禄があってよござんすねえ。

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館内に流れる演歌とムード歌謡

脱衣場でも、浴室でも、途切れることなく演歌やムード歌謡が鳴り響く。客筋も建物の雰囲気も見事に演歌調で統一されており、どう見てもクラシックやポップスは不釣合いだろう。僕は演歌が好きではないが、ここではやはり演歌が似つかわしいと思う。

脱衣場の広さは普通の銭湯並みであるが、銭湯並みでないのが、浴室への入口にある飲泉所。蛇口をひねって温泉を出すなどというケチ臭い了見ではなく、ライオン口から絶え間なく天然温泉がドバドバ流れ出ており、横の冷水器と相俟って、サービス満点。湯量がかなり豊富と見た。

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飲んでみると、若干の金気臭を感じるものの、塩味はほとんどなし、癖がなく飲み易い温泉である。ペットボトル二本までは持ち帰り自由というのは、温泉は生き物で生鮮食料品であるという施設側の認識からであろう。大きなペットボトルを袋に入れて持ち帰る人の姿が目につく。
温泉を飲んでみて気づくことは、日によって濃淡や温度が微妙に異なるということ、これは僕だけの感覚ではなく、常連客も同様に口をそろえる。やはり温泉は生き物なのだ。

源泉かけ流しの内湯と露天風呂

浴室の戸を開けると主浴槽が、長靴を逆さにしたような形で鎮座し、真ん中からの注ぎ口から湯がふんだんに注がれオーバーフロー、まことに贅沢な気分にさせられる。奥の長靴の底の広い部分にはジャグジーとジェット、源泉かけ流し湯のジャグジーであり、白湯のそれとは値打ちが違いますぞ。手前の足首の位置が浅深の深い部分にあたるが、深いとは申せ、座って肩までの位置、この主浴槽はゆっくりと座ってくつろぐ設計だ。湯温も絶妙で、ついつい長湯と相成る。
内湯の奥にはサウナに加え、水風呂と電気風呂が連なる。いづれも小さなものだが、電気風呂まで天然温泉、サウナも無料の良心営業、有難いものですなあ。

露天風呂は7人~8人程度入れる規模のもので、ここも当然源泉かけ流し、岩の隙間から天然温泉が注がれ、温泉気分上々である。ただし、露天でありながらも、学校の中庭のような雰囲気で、見えるのは壁と空ばかりなのは都会地にあるがゆえの限界か。
岩風呂などという凝った浴槽ではなく、普通の石の浴槽、壁もタイル張りで、竹模様の演出がなされるものの、視覚的に洗練されたものではない。小奇麗な風呂が好きなら他所へ行けばよろしい。ここは良質の湯が良心的かつ合理的に提供される場所なのだ。

入浴客は浴槽の淵に腰を下ろし、実に満足げな表情を見せている。そんな姿を見るだけで愉快になる。

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毎分470ℓの湧出量を誇るこのナトリウムーカルシウム・塩化物温泉の湯は、ほとんど無色ながら、僅かに黄色ないし鶯色とおぼしき色合いで、入浴するとほのかに香る硫黄臭がこれまた結構なものである。よく温まる湯らしく、湯あたりに注意との注意書きがあった。

懐かしき日本の銭湯

大阪市内で天然温泉の恩恵に浴し、しかも360円の銭湯料金、毎日千人前後の来客があるのもうなずける。深夜に浴槽の湯を全て抜き、新たな湯を注ぐのが日課であるらしく、入浴客に毎日新鮮な湯に入ってもらおうとするその良心的姿勢には、頭が下がる思いである。
入浴客の大半は地元の人であろうが、表情を見ると実に幸福そうで、刺青の兄ちゃんが、ごく自然に地元の老人の背中を流している姿が日常に見られる。昔の懐かしい日本がそのまま残されているこの銭湯は、まるで時間がここだけ止まっているかのようで、多忙な日常でささくれだった神経を優しく癒してくれるのだ。桃源郷とはこんなところではないかとの思いがよぎる。
かけ流しの良質の湯とノスタルジーを、銭湯料金で堪能、これはとてつもなく贅沢なことではないだろうか。

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text by 湯けむり天使 | 2004.09.25 | [ 大阪下町湯けむり紀行 ] | 固定リンク | コメント (5) | トラックバック (1)