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2007.10.02
最終回:「祇園でどんぐりコロコロ」 ~団栗湯とソースの香り~「京都のお風呂もよろしおすえ」 by 吉村智樹季節の変わり目だからか、先月の下旬にひどい風邪をひいてしまい、寝込んでしまったのです。激しい頭痛のため、頭のなかで諸行無常の響きが鳴りやみませんでした。 諸行無常の響き……ということで、京都のお風呂スポット、最終回に選んだ場所は「祇園」です。 もし「京都と聞いて、思いだす場所は?」というアンケートがあったとしたら、ほとんどの方が「祇園」と答えるのではないでしょうか。日本はもちろん、世界に名だたる観光地です。 そして祇園は京都の「独特」を集大成した街。とにかく、いい意味で、いろいろヘンなのです。 祇園では先ず、 一般車道を、当たり前のように人力車が走ります。 そして、 一般車と同じように信号待ちしています。 文房具屋さんの店先は、 ズラリ祝儀袋が並んでいます。 祇園で楽器屋といえば、 三味線屋さんです。 アクセサリーといえば、 かんざしが定番。 このように祇園の日常は、他の街にとって非日常。観光の本分が「異文化に触れる」ことにあるのなら、祇園を歩くことをお薦めします。京都広しといえど祇園ほどカルチャーショックに溢れた街はないでしょう。 では祇園とは、どこなのか。どこを指して祇園と呼ぶのか。 これまで紹介した京都のスポットと違い、祇園はエリアを把握するのがとても難しい。多くの方が祇園と聞いて思い浮かべるのは、こっぽりを履いた舞妓はんや、もう少しアダルトな芸妓さんがお茶屋に向かう石畳の街であろうと思います。 しかし地元の人が「祇園さん」と呼ぶのは、祇園祭のホワイトベースである八坂神社のこと。確かにバス停「祇園」は、八坂神社の正面にあります。 そして東映の男優さんたちがテレビのトーク番組などでよく「昔は一晩で300万使ったなあ」など夜の武勇伝を披露しますが、その舞台となるスナックやクラブが犇めく一大歓楽街、あそこもまた祇園。そして大阪のおばちゃんたちが「今度、祇園にお芝居観にいくねん。楽しみやわあ」と語る歌舞伎の南座、あの辺りも祇園と呼ばれます。 つまり祇園とは、年月とともに拡大解釈を繰り返し、京阪「四条」駅を降りて鴨川より東側全域を指す場所、いや場所というより概念、さらに言うならサーガなのでしょう。 おそらく初めてこの場所に降り立った方は、祇園の広さとカオスに、戸惑うでしょう。広さだけではなく、朝と昼と夜とでは別の表情を見せますし。僕より年配で、長く京都の情報誌に携わっている編集者でさえ「祇園は深い。謎が多い。神秘のヴェールに包まれていて、いまだに深部まで潜り込めない」と言います。なんせ未成年の頃から修業をしている舞妓さんが政治経済界を動かしているのですから、一朝一夕でその正体を見せてくれるはずがない。 祇園は京都でもっとも有名で、かつもっともディープな街なのです。そんなディープ祇園を、できるだけライトに観てまわりましょう、 京阪「四条」駅を降りると、眼前に威風堂々とそびえるのが、日本最古の劇場「南座」。 開館は元和年間(江戸時代初期)というから、その歴史に背筋が伸びます。 南座は歌舞伎発祥の地であり、昨年は十八代目(!)中村勘三郎の襲名披露でおおいに盛り上がりました。また毎年師走に歌舞伎役者が一同に会す「顔見世」が有名です。 四条大橋のたもとには、 歌舞伎の創始者とされる出雲阿国の像が建っています。 歌舞伎以外にも松竹新喜劇やミュージカルなど上演目も多彩。この日は新派の公演がありました。 水谷八重子と渡辺美佐子の「女学生姿」に、なんとなく納得いかなそうなおばちゃんふたり。 南座はあまりにも有名ですが、かつて四条通りをはさんで「北座」があったことは、あまり知られていません。幕末に南座と対をなした北座は、明治26年に廃絶しました。 北座の跡地には現在、 往時の面影を残した京銘菓「井筒八ッ橋」のビルが建っています。江戸時代を再現した建物ながら、なかではイタリンのレストランもあるんですよ。 四条通りは、お土産もの屋さんがいっぱい。京都ならでは、「あぶらとり紙」が多数売られています。 女性用だけではなく、いまはメンズも売られているんですね。画像が半分切れてしまっていますが、キティちゃんのあぶらとり紙もあります。猫が顔から脂を取ったら、毛がカピカピになるんじゃないか? 「花見小路」の石碑が見えました。 南北に1キロメートルに渡って貫く、祇園のメインストリートです。テレビの旅行番組で「祇園」と紹介されるのは、この通りのこと。 昔ながらのお茶屋(舞妓はんや芸妓はんと遊ぶお店のこと。お茶っ葉を売ってるわけではない)や料亭が建ち並び、花街情緒が味わえます。ちなみに京都の花街は「はなまち」ではなく「かがい」と読みます。 映画のセットのようですね。料理屋それぞれの暖簾を見て歩くのも楽しい。オープンエア・ギャラリーです。 「でも、お値段がはりそう。敷居が高そうだなあ」。そんなアナタのために、 こんな看板もありました。 ぴっしり敷きつめられた石畳が、素晴らしい。 お気付きになられましたでしょうか。メインの通りには電柱が一本も立ってないんです。景観保全のため、この通りだけ電線は地面に埋められています。凄い。 無数に横切る路地にも入ってみましょう。 くねくねと細長い。そして間口が狭く、奥行きがある。風通しがいい。「うなぎの寝床」という言葉は、京都の町家から生まれました。むかしは間口の広さに応じて課税されていたそうで、この独特の構造は、暮らしの智恵がそうさせたんですね。 通りを少し離れると、 わずかに生活臭を感じます。 町家の風景をスケッチする人や、 観光客がお互いの写真をトライアングルで撮りあう微笑ましい光景も。 観光客の波が引きはじめ、石畳に打ち水がなされると、祇園はそろそろ「夜の部」に表情を変えてゆきます。僕もこのコラムの主役であるお風呂を探すとしましょう。 探すといっても、それほど時間も手間もかかりません。祇園は夜にお勤めに出かける方が多く、また夜遊びに繰り出す前にこざっぱりしたいという粋人が多いようで、銭湯もあちこちにあるのです。 小さな銭湯を見つけました。 銭湯というより、町家を改装した歯医者さんみたいな外観。「リノベーション」って感じですね。 店の名は、 団栗湯。「どんぐりゆ」とは、愛らしい名前。きっと鴨川にかかる「団栗橋」のご近所だから、このネーミングになったのでしょう。 暖簾をくぐって、一瞬「おっ」とたじろいだ。 さっき「歯医者さんみたい」と書きましたが、ほんとに歯医者さんの待合室のよう。特にロビーの椅子の感じが。確かに祇園は、夜の虫がうずきますもんね。 浴室に入って、嬉しくなった。「どんぐりゆ」というリリカルでコミカルな語感のとおり、 浴槽がま~るいんです。ちょっとマジでどんぐりに見えなくもない。お池にはまるように、ザッぷーん。 浴槽だけではなく、鏡も円形。そして見渡すかぎり細部のデザインがやさしい流線型。「かわいい」ことがとても重要な価値観である祇園らしい、祇園ならではの銭湯と言えるでしょう。 「団栗湯」 住所:京都市東山区新道通団栗下ル博多町104 営業時間:15:00~01:30 休日:金曜日 料金:390円 @nifty温泉「 団栗湯 」詳細ページへ ほっこり、はんなりした気分で店をあとにすると、花見小路は、 すっかり陽が暮れていました。 北へのぼってみると、 柳の木が並ぶ白川南通り。ここもイイ感じです。 歓楽街のネオンも灯りはじめました。 さて、そろそろ祇園からおいとまする時間のようです。ここからは、財布に札束がうなっている大人たちだけのラグジュアリータイム。僕は小銭をじゃらじゃらいわせながら、大阪に帰るとしましょう。 四条駅に戻る道すがら、思わず足を停めざるを得ない看板が。 「美人多し 一旦停止」 ま、まさか、ポン引き? しかし「美人」と聞いて、立ち去るわけにはいかない。 看板にいざなわれ、歩みを進めると、 今度は犬にサルマタを噛まれている「あほぼん」が。実はここ、祇園名物「壹銭洋食」(いっせんようしょく)のお店。 壹銭洋食とは、小麦粉を溶いた生地に国産牛肉、九条ネギ、チクワ、コンニャク、卵を乗せて焼いたもの。 見た目はお好み焼きに似ていますが、豚もキャベツも一切使わず、トンカツソースではなくウスターソースにこだわるなど、似て非なるもの。九条ネギは甘くて香ばしい京野菜。そんなたっぷりのネギと、固まる寸前の卵の黄身がとろり絡み、官能的な食感。 祇園に永く親しまれたオヤツなので、ラムネとよく合います。これで1枚630円は、お値打ち価格でしょう。なんせネギ、高いですから。 ところで、肝心の美人は? あ、いた! あそこにも! でも、よく見たら、 マネキンやん……。 今日、残念だったのは、舞妓はんに会えなかったこと。舞妓さんって、実はそう簡単に会えないんですよね。ちゃんと遭遇しようと思えば、それなりの手順と財力が必要。630円だと、お会いできるのはマネキンまで。そこが祇園の格式なのです。 そういえば、この人たちにも、会えなかったな。 text by 吉村智樹 | 2007.10.02 | [ 「京都のお風呂もよろしおすえ」 ] | 固定リンク | コメント (1) | トラックバック (0) 2007.09.11第7回:「藤森でソルジャー気分」 ~軍人湯とホットケーキ~「京都のお風呂もよろしおすえ」 by 吉村智樹この連載は今回を含め、あと2回。これまで京都の名だたる観光地や繁華街にあるお湯どころを紹介してきました。 しかし、京都にだってベッドタウンがあり、なんてことないフツーの住宅地も当然ながらあります。そして、まず観光ガイドブックに載ることのないこういった街にも、味わい深い情趣があるのです。休日に心ゆくまで「ほっこり」と心ほどきたいなら、案外こういう街を散策した方が楽しめるかもしれません。 今回は、マイナーながら僕が大好きな街、「藤森」(ふじのもり)をご紹介します。 京阪「藤森」駅を降りると、線路沿いに琵琶湖疎水の流れが汲み入っています。 住宅地のそばを、音もなく静かにとろとろ流れる川。まるでベニス。時間も静かに流れてゆくようです。 駅の西側に、一軒のカフェ『ポポロヒロバクラブ』があります。 観光地の喧騒から外れた静かな街の川のほとりで、のんびりぼんやりお茶する昼下がり。いいじゃありませんか。 どんなメニューがあるのでしょう。ショウケースを覗いてみました。 ん? トーストがトッピングされたパフェが、「恋愛結婚」? こちらはワッフルパフェ。 なぜこれが「嘘でもいいから好きと言って」なの? 嘘でもいいから理由が訊きたい。 レトロな容器に盛られたプリンサンデーは、 「あなた色に染められたい」。 そして、極め付けはコレ。 4段ホットケーキの「積み上げたい私の気持ち」。 積み上げたいって、積み上げすぎだろ。見た目、ホームパーティでよくやる「ゆらゆらゲーム」じゃないですかコレ。 静かにお茶を飲む、つもりでやってきた藤森ですが、どうやら怒濤の恋愛スペクタクルが巻き起こっていたようです。 店のなかは、 広~い。落ち着いた照明、大きなテーブルがいくつも配され、壁にはダーツ、大型スクリーン。どうやら京都の学生の社交場になっているようです。特に「あなた色に染められ」たがってる人もおらず、おかしな点は見受けられませんが……? BUT! 百科事典ほどあるブ厚いメニューファイルをめくり、この店の「ただならぬ」気配を感じました。先ず、カクテルドリンク。 「骨折したテニスの王子ヒデ」「ひらがのポッキーめった刺し!」「ゆかりの時間差攻撃」「ふうことエヴァン時々スロット」「あづさのかわいいしぐさ」……って、誰やねん! ヒデって、ひらがって、ゆかりって、ふうこ(&エヴァン)って、あづさって、どいつもこいつも。メニューの説明がなければ、誰がコレらを飲み物の名前だってわかるでしょうか。 続いて、パフェ。 「俺の心は萌えている」「あなたにだったらあげてもいいの」「会えるぢゃないかまた明日」。これがパフェの名前? ただのピロートークぢゃないか。 もういい? いや、もうちょっとの我慢。こちらは、定食。 「アカネのちゃりんこ」「友達以上恋人未満」「くされ縁な俺たち」……。うぅ、頭痛が……。もう、好きにしてください。「あづさのささやき」、また出てきやがった、あづさめ! 誰か知らんけど。 しかし、これだけヘンな名前のメニューが並んでいると、ザけたネーミングの理由より、逆になぜ「梅しそおろしハンバーグ」だけフツーの名前なのかが訊きたくなるわ。 メニューを読んでいるだけで、体力を消耗します。なぜの嵐が吹き荒れ、立ち向かっているだけで異様に腹が減ってきます。疑念がますます心に積み上がってきたので、ショウケースにあったボリューム満点の「積み上たい私の気持ち」(1500円)を注文し。お店の人に頼む際には、かなりの勇気が要りました。 うお。こりゃ、過積載だあ。ホットケーキ4枚、バナナ、アイスクリーム、それに野いちごとチョコレートのシロップがたっぷり。もはやバベル、いや、食ベルの塔。 これでも半分食べたんですが、ちっとも減った気がしません。食べるというより「登る」感覚に陥ります。でもとっても美味しいから、フォークの手が止まらない。意外とさくさく進んでいきます。お菓子の食材をこれだけ積みあげるんですから、技術も相当なものだと思いますよ。 とはいえこれ、決して「デザート」じゃないよな。 ナンダカンダ叫びつつ、完食してしまいました。お店の人から「お腹、大丈夫ですか?」と訊かれてしまいましたが。 このポポロヒロバクラブ、開店以来27年間メニューが増殖し続け、種類はトータル1000! パフェだけで250種類もあり、さらにお客さんたちが考案する創作パフェバトルも定期開催されているとのこと(こ、こわい……)。 またラブロマンスが溢れる(溢れすぎる)ネーミングは、店長が学生時代、バスケットボール一筋で恋愛と無縁な生活を送っていたため、「パフェで恋愛したい!」との想いが爆発したため、こうなったんだそうです。すべての芸術の発露は、やっぱり妄想なんだな。 ホットケーキの黄色い巨塔と格闘しているうち、すっかり夜になってしまいました。駅の東側に移動し、商店街を歩きます。いやっちゅうほどたっぷり糖分と炭水化物を摂ったため、戦意は高揚、気分は上々↑↑、やけにハイになっております。 おっと、商店街の奥まったところに、戦闘いや銭湯発見! 名前がこれまた、いまの気分にぴったり。その名も、 「軍人湯」 これほどまでにミリタリー色強い名前の銭湯が、ほかにあるでしょうか。さっきホットケーキの要塞を制圧してきたばかりなので、見事にいまの気分と合致。銭湯ブートキャンプに入隊を希望するであります。 近くで見ると、ほんとにムードあるなあ。写真ではわかりづらいでしょうが、建物も相当古いし、貴品がある。店名といい外観といい、ドラマがありそうだ。 玄関が、これまた、 格子戸です。銭湯というより宿舎のようだ。男女を分けるマークがごくごく小さく、よく見ないと間違えて女湯に入ってしまいそう(間違えたフリもできそう、だったりして)。 格子戸の玄関は前回の新地湯に続き、2度目。京都独特の様式なのでしょうか? 僕が住む大阪以下、他の地では経験したことがない。 格子戸を~、くぐり抜け~、浴室に入って、嬉しい驚き。 中央に円型の流水風呂がある。 京都の古い銭湯には、この円型の流水風呂がある店が多いんです。たぶん京都の銭湯で起きたブームの名残だと思われます。 僕はこれが大好き。わざわざ京都の銭湯に行く楽しみのひとつ。へりにつかまりながら猛スピードで周回するお湯に身を任せていると、身体中の汚れがこそげ落ちる気がして。身体ごと洗濯機に入っているような。実際、容積がもっと大きい「人間洗濯機」を設置するお店もいくつかあるんです。 気になるのは、やはり店名です。ご主人に「軍人湯」の名前の由来を伺うと、 ●明治時代から昭和初期にかけ、この辺り一帯は陸軍施設が並ぶ軍都だった。 ●この店が創業したのは、大正時代。周囲に兵営がたくさんあり、お客さんはやはり陸軍師団の歩兵、騎兵、砲兵たちだった(つまりこれが店名の由来)。 とのこと。藤森駅も昭和16年まで「師団前」駅という名前だったそうで、軍隊がこの地からなくなっても未だに道路は「師団街道」「第一軍道」「第二軍道」といったふうに、地名に遺っています。 ということはこの「軍人湯」、ひじょうに貴重かつ追体験できる「戦跡」なんですね。銭湯めぐりは、時間めぐり。京都を旅するということは、時間を旅するということ。駅前に静かに流れる川は、「積み上げ」られた時を遡っているのかもしれません。 銭湯をめぐると、タイムトラベラーになれる。時間旅行の旅に、ぜひ京都へ。その場合、パフェで腹ごしらえすることをお薦めします。腹が減っては、戦はできませんから。 「軍人湯」 住所:京都市伏見区深草極楽町775 営業時間:16:00~23:00 休日:水曜日 料金:390円 text by 吉村智樹 | 2007.09.11 | [ 「京都のお風呂もよろしおすえ」 ] | 固定リンク | コメント (0) | トラックバック (0) 2007.08.28第6回:「ここは京都のウオーターワールド」 ~名水、名酒、名湯を求めて伏見へ~「京都のお風呂もよろしおすえ」 by 吉村智樹残暑が厳しすぎます。もう完全にバテてます。バテるロワイヤルです。 こんな暑い日は、「ひや」の清酒をクイッとやって、お風呂でさっぱり汗を流すのが最高。 そこでぜひともお薦めしたいスポットが、伏見。 伏見は京都のなかでも特に良質の地下水に恵まれた街で、いたるところ清らかな水が湧き出しています。 それゆえに酒造が栄え、なんと27社もの蔵元がひしめいているのです。 伏見の地下水はカリウム、カルシウムなどをバランスよく含んだ中硬水。そのまま飲んでも本当に美味しい。人はこれを「和らぎ水」と呼びます。さらに酒造りにはこれ以上ないほど理想的な玉の水。お酒が好きで、お風呂が好きな方ならば、伏見を訪れないなんてもったいなさすぎ。 伏見へ行くにはいくつかのルートがありますが、僕は京阪電車『中書島』駅から歩くのが好き。なぜなら、街の風景が、艶っぽいから。 中書島駅前は、降りるといきなり、味のあるスナック街。 一瞬「一見さん」が躊躇してしまうクローズドなムードも、ディープ京都の味わいのひとつ。 この街の名物は、なにを措いても、先ず伏見の銘酒。だからお好み焼屋さんでも、 看板は清酒のほうがデカい! つまみはあくまで、つまみ。「食い物より、とにかく一度お酒を飲んでみてよ」、そんなメッセージが看板にも強く表れています。 夕方に駅を降り立ったのですが、まだカンカン照り。 ほんま、暑いのう。行き過ぎる京阪特急の向こうには、もんもんもこもこ入道雲。自転車に乗っている男性も、ほぼ半裸。 それでも暑さにさほど不快感を抱かないのは、ここが水の街、川の街だからでしょう。 そしてこれらの川を、いまも十石舟がゆうらりと、のぼったり、くだったり。 「十石舟」とは、江戸時代から明治末期にかけ、大阪まで酒や米を運搬した木造の屋形船。平成6年に遊覧船として復活しました。15人乗りの小さな舟で往復3キロ、約45分の船旅。スリルも絶叫もない、はんなりウオーターライドです。 もしこの舟に喜んで同乗してくれる女子がいたら、「さすが、わかってる!」と思うなオレは。 残念なのは、僕が訪れた時が、ちょうど夜間運行までの休憩時間だったこと。チックショー!(死語)。またいつかここに来て、再渡来、再トライだ。 運航時間はこちら。けっこう頻繁に運航しています。 ちなみに乗り場はこちら。 チープなので、見落とさないように。 川から黒塀の連なりが見えます。 そして遠くに煙突も。酒造りの蔵が、川の向こう岸に並んでいるんですね。 大きな酒蔵が点在。住宅地のトイ面に白壁土蔵の酒蔵がズラリ。 絵になるなあ。こういう光景が、ごく当たり前に駅前で展開される京都って、いったい。やっぱり京都はラベルが違う(by村田英雄)。 蔵には立派な犬夜叉、じゃなく犬矢来(いぬやらい)が。 犬矢来とはアーチ型の垣根のことで、京都の伝統のひとつ。犬や猫が壁に用をたさないように作られたものなのです。あたりまえですが、ペットボトルとは風情が違いますね。あまりにいい風景なので、「京都の小京都」と呼びたくなる(どういう意味や)。 おお、これはまた、格別に立派な建物ですね。 新酒ができたことを知らせる「杉玉」も吊り下げられています。さぞ大きな酒蔵メーカーとお見受けした。 看板が出ていますね。 『月桂冠大倉記念館』 なるほど、月桂冠か~。どうりで。ここは酒蔵を改装した月桂冠の清酒ミュージアムだったのです。 さっそくなかに入ってみましょう。入館料300円を支払うと、おみやげに、 冷えた純米酒の一合瓶がもらえます。フタがお猪口になっているのがウレシイ。 これは清酒の原料となる米を蒸す「甑」(こしき)。いわゆる炊飯器。デカい! これほど大きな器具で炊いた米、ギャル曽根ちゃんでもたいらげるのに一週間はかかるでしょう(もっとかかるやろ)。 お、大きな瓶が。 むかしの宣伝ディスプレイ用の瓶だそうです。手前の一升瓶と較べてみてください。こんな大きな酒瓶、ギャル曽根ちゃんでも以下略。 これは昭和8年のポスター。 きれいですね~。見目麗し。なんと、残念ながら当局から「セクシーすぎる」とのお達しがあり、このポスターは日の目を見なかったそうです。もったいない。いまだったら大丈夫だと思うので、ぜひ同じポーズで復刻あるいはリバイバルしていただきたい。モデルはリア・ディゾンで。 こちらにはカワイイ看板が。 これは昭和9年の店頭ディスプレイ。いまでも充分通用するデザイン。「子供が酒瓶持ってるぞ。いいのか?」。心配ゴム用。モデルは往時の大リーガー、ベーブ・ルースの人気にあやかった成人なのだそう。 でも考えてみると、昭和9年に、こんなにも愛らしく、かつ斬新なデザインのキャラクターが店頭に置かれていたんですよね。京都は伝統格式を重んじるばかりではなく、先鋭的なデザイン感覚が常に備わった街なんだと、改めて思い知らされます。 中庭に出てみました。 大きな煙突が、仕込みの甚大ぶりを物語っています。それにしても(毎度言ってますが)京都は空が広いなあ。 酒樽の日干し。漂ってくる麹のよい香りが、胸をすきます。 なんとここでは、酒造りに使う水を、無料で飲むことができます。 樽から溢れでる水が、目に涼しい。この水は香りがとてもよいことから「御香宮」(ごこうぐう)と呼ばれ、ミネラルバランスも極上とのこと。 さっそく、いただきます。 ゴク……、ゴク……(おかわりする)、ゴク……(さらにもう一杯)、ゴ、 いま、たいへんなことが起きました。僕のなかで、事件が起きました。 こんなンまい水を飲んだの、嘘偽りなく、初めてです! 口に含んだ瞬間、ふわっと甘い香りが。舌の上、舌の脇、舌の裏で、水の分子構造がふくらむ感じ。とろりと喉に落とすと、あまりの甘露な味わいに、喉の奥が水を奪いに来る、そんな感じ(どんな感じや)。いやもうこれは「水を飲む」ではなく「水とキスする」だ。 そういうわけで、一心不乱に飲み倒してしまいました。こんな宝石のような水で酒を造ったら、そらぁンまいはずだ。 で、お酒は? ご心配なく。利き酒のコーナーもあります。 小さな小さなビーカーのようなもので、さまざまなお酒を飲み較べられる。はっと口中が華やかになるものもあれば、日本酒なのにアーバンナイトを演出するクールな口当たりのものもある(どんなんや)。 どれもあれもとても美味しいんだけど、ひとつだけ挙げるなら「梅ワイン」(梅酒ではない)がエクセレント! ああ、おいしかったな~。決して酔っぱらわない、お酒の味を冷静に楽しめる寸止め量なのがイイ。月桂冠、GJ! 名酒をおしいただき、名水を存分に味わい、お次はやはり、名湯に肩までつかりたいところ。ならば、銭湯へGO! 地下水が豊富な街だから、銭湯も多いのです。そのなかで僕が目をつけたのは、 ゴージャスな洋館、『新地湯』。 重厚な造り、映画のセットのようですね。昭和6年創業ということは、当然のことながら戦火もまぬがれているんですね。 男湯と女湯の入口がはっきりふたつに分かれ、外に出るまで男女が顔を合わすことがないのが京都独特の構造(様式、美意識と言ったほうがいいか)。 煙突も威風堂々。金属製で、ロケットのようです。 新地という名からもわかるとおり、この銭湯は歓楽街の中心にあります。銭湯というと「町はずれ」というイメージがありますが、ここは伏見の新地のランドマーク的役割を果たしています。港町の美酒で舌を鍛えた粋人、酔客たちにとって、このノスタルジックな建物は、きっと誇りだったでしょう。 暖簾をくぐって、驚き桃の木21世紀。 引き戸はなんと、障子! これは初めて見ました。さすが艶のある街。料亭に来た錯覚に陥りそう。 浴室入口の周囲が、なんと曲線デザイン。それを色とりどりのタイルが覆っています。思わず「楼閣」という言葉が頭に浮かんでた。京都に通うようになってつくづく思うんですが、昔にできたもののほうがデザイン新しくないか? そして目を引くのは、夥しい量の、 「洗面器キープ」。スナックが並ぶ街だけあって、洗面器もボトルキープ感覚。そう、ここはオトナの街のオトナの銭湯。 鏡の広告も、 うん、さすが、網羅してんなあ。 浴室に入って、さらに仰天。 お湯が溢れてる! このお店は地下水を汲み上げて沸かしています。そんなお湯がこんこんと湧き、風呂から溢れかえっているのです。だってこれ、お酒の原料になる名水と同じ水ですよ。さっき僕が飲んだ水と同じですよ。日本名水百選にも選ばれている水が、惜しげもなくガンガンかけ流し。 バスから外へ溢れまくっているのに、このコがまだ注ぎ足してます。キミキミ、もったいないってば! 伏見の名水で全身の汗を流す。こんな贅沢が、果たしてほかにあるでしょうか。わずか390円の入泉料で、ですよ。 もちろん、「湯水の如く、湯水を使う」からと言って、お湯の無駄遣いはいけません。このような注意書きがあります。 「湯ぶねのなかでタオルをつかわんといてえ」 注意書きさえ、チーママ風味なのも、この街ならでは。 名水で身体を洗い、名水で頭を剃るという奇特な極上体験をし、爽快感に包まれながら身体で外へ出ました。 日が暮れてきたなあ。 水がいい街、水の合う街、今日は素晴らしいアクアタイムズでした。 「新地湯」 住所:京都市伏見区南新地4-31 営業時間:16:00~23:00 休日:月曜日 料金:390円 @nifty温泉「新地湯」詳細ページへ ▼ おまけ ▼ コインランドリー&ドライクリーニング『キュウリ』 なんでキュウリなんだろう。確かにキュウリには美白効果があるけど。 どうやって遊ぶん? text by 吉村智樹 | 2007.08.28 | [ 「京都のお風呂もよろしおすえ」 ] | 固定リンク | コメント (1) | トラックバック (0) 2007.08.14第5回:「涼しさを求めて北大路へ」~初音温泉で蕎麦とお風呂を堪能す~「京都のお風呂もよろしおすえ」 by 吉村智樹酷暑が続いています。全国各地で観測史上最高気温を記録し、熱中症や熱射病に倒れる人が続出。 京都の暑さ、いや熱さもまた、格別に強烈。涼を得るために鴨川を訪れたら……、 夏草がぼうぼうと生い茂っていました。鴨川って、こんなんだったっけ? まるでアマゾンのよう。この光景には思わず驚きの声をあげてしまいました。 これほどまでに暑いと、人手が多い観光地に出かけることを躊躇してしまいます。嵯峨野の竹林、保津峡のトロッコ列車など、京都には涼やかな場所がたくさんあります。しかしそんなオアシスを求める人々がごった返しているのかと思うと、「いまはちょっと、やめとこ」と二の足を踏んでしまいます。 そこでお薦めするのが、郊外です。 静かで、緑豊かで、通り抜ける風が涼しい、身も心もクールダウンさせてくれる街が京都にもあります。それが北大路(きたおおじ)。夏の京都の穴場です。ハンカチ王子、ハニカミ王子の次にクルのはキタ大路だと、アタクシ断言させていただきます! 「北大路って、どこだっけ。北大路欣也なら知ってるけど」という方のために、京都駅からご案内しましょう。 北大路は京都市営地下鉄烏丸(からすま)線『京都』駅から8駅目。約14分の乗車です。 改札を抜けると、 蝶ネクタイのシルクハットボーイがお出迎え。 さすが烏丸線。高級住宅街を駆け抜ける路線なので(東京に例えるなら、ズバリ東急東横線)、看板すら正装で迎えてくれます。 ホームへ下りる階段のそばでは、 シルクハットボーイズが京都の興味深いイベントを告知しています。 プラットホームにもいた! エスカレーターの前にもいやがった! それぞれが、さまざまな注意書きを持っています。なんだかハイクラスなホテルにいるかの如き護衛ぶり。 グリーンラインの列車が着きました。 これに乗りましょう。大阪や兵庫県だと列車は野球色全開になるのですが、京都はやはりサッカー。京都サンガF.Cの広告が列車のボディに。蹴鞠文化のDNAは、いまなお京都人の体内に受け継がれています。 ささ、『北大路』駅に到着しました。改札を出ましょう。 またいやがったシルクハット野郎! よく見ると、後方にももうひとりいる。どうやら烏丸線全駅に配されているようです。ご苦労様です。 駅を出ると、 いきなり大谷大学キャンパス。駅から徒歩30秒。京都は「大学の街」でもあり、駅前に建つ大学が多いのも特徴。学生をとても大事にしているのがわかります。 振り向くと、 キタオオジタウンがあります。ビブレや各種ファミリーレストランがあり、お買い物や食事が楽しめます。 他都市では当たり前な光景ですが、京都では景観保護のため、駅と大型ショッピングモールが合体している例がとても少ないのです。チト語呂の悪いキタオオジタウンを見ていると、「郊外に来た」ことをより一層実感します。 北大路通りに立ってみました。街をハイソなムードが包んでいます。たこ焼き屋さんも、 フレンチレストランと見紛うばかりの造り。 北大路橋に出てみると、 山の稜線がくっきり。いい眺め。京都は空が広いです。 橋の下を賀茂川が流れ、向かって左手に府立植物園があります。さらにこの一帯はユリカモメの飛来が見受けられる貴重な場所で、保存会もあります。実に自然豊かな街なのです。 それだけにこの街は単にハイソなだけではなく、ネイチャー、ロハス、オーガニック、ハーブ、ガーデニング、無農薬、有機野菜など自然由来な文字が散見。 赤れんが風タイルが敷かれた商店街に、 よしず張りのお店が。無添加素材を使った手作り定食&お弁当のお店「ツルオカショクドウ」。 おからコロッケ……気になる。素通りできないではないか。 コ腹がすいてきたので、ちょうどよかった。ふたつ、くださ~い。 注文する度に揚げるので、少々時間がかかります。でも快い風の吹くこの通りで景色を眺めていると、待ち時間もまったく退屈しません。 できあがったのが、これ。揚げたての、あっつあつ。 デカ~い! コロッケというからもっと平べっちゃいのかと思いきや、ソフトボールのよう。割ってみると、 キメ細かい新鮮な卯の花がたっぷり、満タン。 国産大豆、天然にがりを100%使用した安心の一品。食べると、雪のように舌の上でさらさら溶けてゆき、卯の花の実力のほどがうかがえます。これはもう卯の花ではなく雪の華。中島美嘉にも食べさせたい。植物繊維たっぷりですから、油で揚げているのにサッパリした後味。こんなに大きくて一個150円は安い。 お腹の虫が抑えられたところで、少し歩きましょう。僕の京都行脚の第一目的は銭湯。この街でもステキ銭湯に出会いたいものです。 しばらくぶらぶらしていると、 キュービックな建物に出くわしました。遠目に、温泉マークが描いてあるように見えますが? ああ、やっぱり銭湯だった。「初音温泉」か。風流な名前。北大路にぴったり。今夜はここに入らせてもらおう。 ん? 隣に、銭湯と同じ名前のおそば屋さんが。 階段がありますね。どうやらこの建物、一階が銭湯で2階がおそば屋さんになっているようです。同じ名前ということは、もしや「そば屋もやってる銭湯?」。だとしたら、それは凄く珍しい。 さっき、おからコロッケをふたつ食べたばかりですが、美味しいものをいただいて逆に食欲が刺激されていたところ。それに「風呂の前に蕎麦」とは、究極の風情、いなせじゃないですか。ひとっ風呂浴びる前に蕎麦をたぐろうってなぁ、こんちこれまたイキでゲスなアニさん(なぜ急に江戸の落語家みたいに)。 2階のおそば屋さんにあがって尋いてみると、やはり銭湯もこの店も同じく家族でやっていらっしゃるとのこと。京都は、ほっんと、ユニークな銭湯が多い。 お店のなかは、和モダン。落ち着きます。 せっかく京都に来たのだから、名物「京にしんそば」(950円)をいただきます。 にしんそばは京都生まれ。海から遠い京都は、それゆえ干し魚料理の技術が発達しました。甘露煮した香ばしい身欠きにしんをそばの種に使ったところ、これが評判になり、京都中に広まったそうです。 確かに、ンまい。にしんは甘いところあり、苦いところあり、野趣溢れるそばに合うんです。国産そば粉と2種類の山芋を使った自家製麺が芳しく、素朴で、けっこう歯ごたえがあります。 ふと「ここ、自然食の店が多い北大路を象徴してるな」と思いました。そういう地場、というか磁場があるのかな。 あとで聞いたら、「一階の銭湯からそばの出前がとれる」とのこと。そっちもよかったな~。 いよいよ一階の銭湯へ。 玄関の照明に暖色のほの灯りを使っているのが、他の銭湯とは違うところ。 犬の玄関マットがカワイイ。 脱衣場のガラスはアーチ型。いわゆる「街の銭湯」とは随分印象が違います。 タイルのカラーリングも、白と黒。デザインも先鋭的です。銭湯でこの色遣いはなかなか見られないですよ。むかし「クリームソーダ」っていう50'sファッションのブティックチェーンがありましたが、あんな感じ。 浴室に入って、いきなり目に飛び込んできたのは、 アクアリウム! 広い広い浴槽の向こうに水槽があしらわれ、熱帯魚が泳いでいます。 サウナもきれい。しかも無料! 温度は100度。かなり熱いです。 ほかにも薬湯にはテレビがついていたり、男湯と女湯の境界に観葉植物が並んでいたり、洗い場は椅子ではなくプラスチック製のシートだったりと、旧来の銭湯のイメージを覆される趣向がいっぱい。スーパー銭湯を越えたウルトラ銭湯。 見た目だけではなく、地下100メートルから汲み上げた水は清廉そのもの。水がしゃきしゃき活きてます。 この初音温泉、創業が昭和2年だというから驚かされます。伝統がありつつ、変革もあり、オリジナリティがある。温故知新の志が、肌身に沁み渡ります。 身体だけではなく心も洗濯できた。いい夜だったなあ。 北大路の駅から帰路につこうとしたら、 シルクハットボーイズがズラリ。こんなにたくさん。多すぎ多すぎ。 「初音温泉」 住所:京都市北区小山初音町15 @nifty温泉「初音温泉」詳細ページへ ▼ おまけ ▼ ということは、これまで休園してたのか? text by 吉村智樹 | 2007.08.14 | [ 「京都のお風呂もよろしおすえ」 ] | 固定リンク | コメント (0) | トラックバック (0) 2007.08.06第4回:「西院はV!」~西院の弥生湯で電気Biribiri~「京都のお風呂もよろしおすえ」 by 吉村智樹京都は特に寺社仏閣や旧跡の多い街ですから、常に観光客で賑っています。 でもそんな京都にも珍しく観光客がほとんど訪れない、地元の人々だけで盛りあがるスポットがあるのです。それが西院。 西院は「さいいん」と読みますが、当地の方々は「さいん」と呼びます。 京都市外の西側に位置し、居酒屋や立ち呑み屋が軒を連ねる歓楽街。いわゆる整然とした「京都のイメージ」からは程遠く、それゆえ地元の人々が心からリラックスできる場所。 京都の人だっていつも着物を着て京料理をおちょぼ口で食べているわけではありません。焼き肉や焼き鳥、ビールで本音を語り合いたい時に「今夜はさいんで呑もか!」と目でサインを送りあう、そんな普段着の街なのです。 今回は、そんなカジュアルな京都をご案内します。 夜7時の阪急電鉄京都本線『西院』駅。大きなターミナル駅です。通勤帰りの人々が駅からドッと吐き出されてきます。 サラリーマンが多いから、駅の裏はご覧のとおり、 ソソられる、いい塩梅なムードのいっぱい呑み屋が並んでいます。店の奥から串焼きの香ばしいにおいが漂い、鼻腔をくすぐります。 西院を東京に例えるなら、赤羽や十条に雰囲気が近いと思います。繁華街なのに、わざわざ他県から訪れる人が少ないという点で。 辻々に庶民的な光景がひろがり、泣かせますね。古い町家を改装したBARがたくさんあるのも見逃せません。こういうお店でハイネケンを飲んだら、さぞンまいだろうな~。 大通りもご覧の通り、昭和色が横溢。 さすがフォークソングの似合う京都。こういうところでシグナルの「20歳のめぐりあい」なんかをポロポロつま弾いてみたいものです。とはいえ、ギター、まったく弾けないんですが。 おっと! 踏み切りもないのに目の前を電車が通り過ぎてゆきました。危ない危ない。京都に馴れていない人には、かなり驚くシーンです。 これは京福電鉄『西院』駅から発車した電車。 街のへこみにポツンとたたずむ京福電鉄『西院』駅。 絵になる無人駅です。先述の阪急『西院』駅とは大通りを隔てて隣接しており、地元密着度はこちらがさらに上。一両のみの路面電車が、空隙をぬって走ります。 ちなみに京福電鉄『西院』駅は、阪急とは違い「さい」と読みます。同じ表記の駅名なのに読み方が違うとは、なんともサイキック。この街は「さい」「さいん」「さいいん」と3つの呼ばれ方をしているのですね。もしここにジョジョが来たら、「さいいぃぃぃぃんっ!」と新たな読み方をするかも。来ないでしょうが。 もともと西院の「さい」は「賽の河原」が語源だそうです。京都では昔から「西方に、あの世への入口がある」とされ、ここ一帯はこの世とあの世を分け隔てる三途の川があったと考えられていたんです。 京都にはこのように、冥界に関する地名が残っています。西院のほかに「化野(あだしの)」もそうです。 地名の由来に沿って、天国を見つける旅に出るとしましょう。僕にとって天国といえば、やはり銭湯。 西院は「銭湯密集地帯」とも呼ばれ、とにかく多い。どこの銭湯に行こうか迷ってしまうなんて、間違いなくここは天国、極楽。 京福電鉄の裏手に、ひときわ映える銭湯を見つけました。店名は『弥生湯』。 多面体をなした外観がモダンです。そしてやはり、このネオン看板を見過ごすわけにはまいりません。 電気温泉! 浴室に電気風呂があるお店は多いですが、ここまでデカデカと「電気」を強調した看板は初めて見た! もしやここは、湯沸かし自体も電力で行っている、いま流行りのオール電化なのか? さっそく入ってみましょう。 入ってみて、いきなり電流が走ったような処女的衝撃(バージンショック!)。店の造りがひじょうにユニークなのです。 前回「三階建てで、浴室にはエレベーターであがる」という奇妙奇特な銭湯を紹介しました。実はこの弥生湯も3階建て。 しかし奇態度はこちらのほうに軍配。なんと一階入口にはラウンジがあり(これがいきなり珍しいんですが)、地下1階が女湯、地上2階が男湯というサンドイッチ構造! それを知らないままロビーでお金を払っている際、下から女の人がぬっと現れた時は、驚いて腰が抜けそうになりました。 2階の男湯まで、ゆるやかな階段があります。 この階段の下に、お酒を楽しめるスタンドがあるんです。カウンターにはおつまみがズラリ。ビールはジョッキで飲めます(一杯オマケになるビールの回数券まであるとのこと)。 普通の銭湯でこのニクいサービス、なかなかないんじゃないでしょうか。カップルでこの銭湯にやってて、先にあがったほうがカウンターでビールをグイとやりながら待つ。「あいつ、遅いなぁ~」とか言いながら。ステキですよこれは。もう待たされている方が「洗い髪が、芯まで冷えて」なんて心配はゴム用。 2階にあがって、さらに、 化粧台までカウンター形式。脱衣場のソファも円形になっていて、「ファニチャー」と呼びたくなる感じ。 多種多様な浴槽が整然と並んでいて、少し緑がかった浴槽が電気風呂。イオンの関係でこういう色になるんでしょうか? 化学は不得意なので、よくわかりません。浴槽の中に低周波パネルが2枚貼りついていて、身体が硬直するほど、かなりビリビリきます。 さらに電気風呂の奥は「香付泡風呂」といって、とてもよい香りがします。この日は「ローズ風呂」。入浴剤ではなく、乾燥させたバラの花を木綿袋に詰めて浮かせていました。言わばポプリ風呂ですね。身体に優しい天然素材にこだわっているようです。 電気風呂をここまで全面に突出させるとは(普通は奥にありますよね)、相当ご自慢な様子。「電気温泉」の由来は、やはりこれなのでしょうか? お店の方に伺いました。 「いや、電気っていうのは『新しい』という意味で使ったんです」 なるほど。むかしはよく「ナウさ」を表すため「電気」や「エレキ」「ステレオ」なんて、本来の意味とは関係なく使ったものです。確かにこの銭湯、レトロではあるけれど、いろんなところが新しい。 それに京都は水がいいから、入浴すると身体が「真新しく」なった気がするほどサッパリするのがいいですね。このお店も湧水を沸かしていますから、京都の水の実力を堪能できます。 外に出てみると、もうあたりは真っ暗。呑み屋のある横丁も、 さらにイイ湯加減になっていました。ボルト、じゃなくボトルがさらに空きそうです。ベッドタウンという言葉があるけれど、ここは心をほどいて楽しめる布団タウンなんでしょう。 喉が乾いたので、帰りに駅裏の「のぐち」というお好み焼屋で、「自家製黒みつ」のかき氷をいただきました。 甘みがあっさりしていて、おいしかった~。やっぱしここ、極楽! すると、だんだんお腹がすいてきて、 お好み焼きを注文してしまいました。ボリュームたっぷりで、大満足。しかし食後にお好み焼きって、逆だろ! 頼んだのは「そばのせ」。大阪で言う「モダン焼き」ですが、京都ではそう呼ばないのかな? ちなみにこのお好み焼屋では、その店のお子さんが、 店先で普通に晩ご飯を食べてました。落ち着きますな~、と言いたいところだけれど、他人の家の台所でかき氷食べているようで落ち着きませんでした。 「弥生湯」 住所:京都市中京区壬生西土居ノ内町25 @nifty温泉「弥生湯」詳細ページへ text by 吉村智樹 | 2007.08.06 | [ 「京都のお風呂もよろしおすえ」 ] | 固定リンク | コメント (0) | トラックバック (0) 2007.07.13第3回:「恋に正面からぶつかりたい!」 ~えんむすびの神と正面湯~「京都のお風呂もよろしおすえ」 by 吉村智樹いま時分の京都は祇園祭でおおいに盛りあがります。浴衣姿のアベックが(アベックって、死語ですか?)そこかしこに。鴨川のほとりには絶妙な等間隔でカップルがズラリ並びます(カップルって、死語ですか?)。 しかし、今年も僕は祇園祭にひとりで行くことになりそうです。僕には彼女がいません。僕はバツイチなのですが、バツがついてから今日に至るまで、彼女がいた試しがない。このままでは、あまりに切なすぎる。刹那さを消せやしない。 今年こそ祇園祭をステディとともに楽しみたい(ステディって、死語ですか?)。そういうわけで、えんむすび、恋愛成就の神様として知られる地主(じしゅ)神社を参拝することにしました。 地主神社は、「清水の舞台から飛び降りる」のキャッチフレーズ(?)でお馴染み清水寺のそばにあります。 取材日は平日だったのですが、 にもかかわらず参道は大勢の観光客で賑っています。 清水寺の参門をくぐると、ありました。地主神社。 「えんむすびの神」「良縁祈願」、そして赤く大書きされた「縁」の文字! まるでエムブレムのようなデザイン。そして「恋占いおみくじ」。期待がいやおうなく膨らみます。 「有名な恋占いの石あります」「LOVE STONE」 LOVEマシーンてのは聞いたことありますが、LOVEストーンとは、いったいなに? どうやら境内に、謎めいた石があるようですね。それにしても神社で「LOVE」の文字が踊っているのは、国内ではおそらくここだけでしょう。 売られているお守りもまた、実にラブリー。 「キューピッド」「愛のちかい」 キューピッドはギリシャ神話に出てくるヴィーナスの子供で、恋愛の神様と言われています。心強い味方です。「ギリシャと京都、どう関係があるの?」。ここではそんな野暮は言いっこなし! 愛の前では、すべては平等なのです、たぶん。 「愛のちかい」の箱にもLOVEの文字が。パッケージデザインが、なんとなく薬局で売ってそうに思えるのは気のせいでしょうか。 ほかにも、 「しあわせ」「ふたりの愛」「よろこび」など、ヴァリエーション豊富。愛にはさまざまな形がありますから、お守りも当然ユーザーのニーズに合わせ多種多様。 さらにこんなお守りも。 恋を叶える「星座守」。 なんだかファンシーグッズのようですね。自分の星座だけではなく、憧れのアノ人の星座お守りを買ってプレゼントすれば、神話の神々がきっとふたりの恋を結びつけてくれることでしょう。 神社と星座のつながりに違和を感じる方もおられるかもしれませんが、十二星座(十二宮)は仏教経典を通じてインド→中国→日本に伝わったもので、かつては清水寺の鎮守様だった地主神社に置かれていることも、どんぴしゃではないものの、あながちはずれてはいないようです。 本殿への石段をあがると、お、あった。例のLOVE STONEが。 膝の高さまである大きな願掛け守護石。外国人観光客も珍しげに眺めています。恋の悩みは世界共通。だから、 こんなふうに世界中から祈願成就のお礼が届いています。遠くはドミニカ、ハンガリーからも。 10メートルほど離れた先に、もうひとつ同じ石があります。 境内にあるこのふたつの「恋占いの石」、両目をつぶったまま反対側の石に辿り着けたなら、恋の願いがかなうと言われています。古くは室町時代、さらに江戸時代の文献にも、老若男女が楽しげにこの石で恋占いをしている光景が描かれているそうです。 僕も試しにやってみましたが、石ではなく壁にぶつかってしまいました。 女性どうしで、「こっちこっち」と声をかけあっている人たちもいました。楽しそう。スイカ割りみたいで。 ちなみに友達の呼び声など先導があって辿り着くと、実際の恋愛でも友人の助けを借りることになるとのこと。ひとりでは辿り着けなかった貴女、これからは合コンの誘いは断らないようにしましょう。 それにしてもこの地主神社、訪れる人たちの切迫した想い、緊張感が張り詰めています。 手水のひしゃくの裏にまで……。 そんな緊張感が漲る境内ですが、ほっと心ほどけるキャラクターもたくさんいます。それは、うさぎ。 うさぎは「子授けの象徴」とされ、京都にはうさぎをまつる神社が多いのです。臨戦態勢に入り目が血走ったうさぎが、あなたの逢瀬を後ろから必死で応援してくれますよ。 なんか、↑ このうさぎ、かわいくなーいとおっしゃる方、ご安心ください。 こんなファニーなんもいてはります。 地主神社でロマンスのオーラをたっぷり浴びました。次はお風呂でゆったりお湯を浴びよう。先ほどの参道をくだり、そのまま五条通を直進。鴨川の手前で七条方向へ曲がると、ありました。 「正面湯」 恋愛に正面から向き合いたい気分のいま、ここほどジャストフィットな名の銭湯はほかにありません!(とはいえ、単に正面町にあるからこの名なんですが)。 この正面湯、ひじょうにユニークな構造なのです。見てください、脱衣場にエレベーターがありますね。 実はこの銭湯は3階建てで、裸のままエレベーターに乗って浴室にあがるという珍しい造り。ひとりだといいんですが、同乗者がいると、さすがに照れます。 エレベーターで2階の浴室に到着。 おお! 真っ白! よけいな装飾がいっさいない。ベリー・シンプル。天井の配管むき出しのコンクリートが、実にポストモダン。まるで80年代のカフェバーにいるようです。奥にはバー・カウンターが……さすがにそれはなかった。浴槽は広く、タイル地も隅々まで磨きあげられ、清潔。湯温は少し熱めで、気持ちが引き締まります。 さらにエレベーターで3階へ(どうしても抵抗がある方は、階段もございます)。 おお! オサレ! 3階にはEV完備の休憩室があり、間接照明がいいムード。ここ、本当に銭湯ですか? 僕、裸のままでいいのでしょうか。いや本気と書いてマジで、ここにバー・カウンターを作ってマティーニでも出せば流行るんじゃないかな。 3階にも浴室があります。 円形の薬草風呂と、奥には露天風呂。このお店、全体的に無色でトータライズされ、浴槽などのデザインが近未来っぽいんですよね。京都にはたくさんのレトロな銭湯があるのですが、「レトロフューチャー」な気分に浸れるのは、ここだけかも。 身も心もすっきりさっぱりして外に出たら、辺りはもう真っ暗。 闇に浮かんだネオン管の店名。いわゆる銭湯、らしくない。遠目には、ほんとカフェバーだと思うよなあ。彼女とクラブで踊ったあと、ここに再び訪れたいものです。ま、クラブって、行ったことないですが。 地主神社様、どうかよろしくお願いいたします! 「正面湯」 住所:京都市東山区鞘町通 @nifty温泉「正面湯」詳細ページへ ▼おまけ 取材中に見つけたお好み焼き屋 なんか知らんけど、とりあえずがんばれ! text by 吉村智樹 | 2007.07.13 | [ 「京都のお風呂もよろしおすえ」 ] | 固定リンク | コメント (0) | トラックバック (0) 2007.06.29第2回:「京都タワー ~時々ボクも思い出して~」「京都のお風呂もよろしおすえ」 by 吉村智樹書籍や映画、ドラマなどで「東京タワー」が再び脚光を浴びています。リリー・フランキーさんの『東京タワー ~オカンとボクと、時々、オトン』が大ベストセラーとなったので忘れられがちですが、その直前には江国香織さんの恋愛小説『東京タワー』もヒットしました。同じ塔が同時期に注目を集めるとは、「タワー再評価」の時代が来ているのかもしれません。 だったらぜひ、京都のシンボル、ランドマークの京都代表選手である「京都タワー」も、この機会に見直してみようではありませんか。 京都駅前にそびえる白い巨塔、京都タワー。1964年に開業し、以来43年間その姿を変えず京都に訪れる観光客を見守り続けています。 独特の色白ほっそり体型に至ったいきさつには「仏閣が多い京都にちなみ、和ろうそくの形にした」「海のない京都市内を照らし安全を守る灯台になってほしいから」など諸説あります。また、高さが131メートルもの高層に及ぶのは「開設当時の京都市の人口が131万人だったから」だそうです。 ただこの高さや個性的すぎる外観には、これまで激しい批判を浴びてきました。「デザインが斬新すぎて古都のイメージにまったく合わない」「高さ規制がある京都に、こんなデカイものを建てていいのか」。京都府民のみならず、日本中から批難されたのです。地元のなかには京都タワーがお嫌いな方もおられ、京都出身の映画監督が『ゴジラvs.メカゴジラ』の中で破壊してしまいました。 ただ時を経て、京都タワーも街にすっかり定着した様子。往時はハイカラすぎたデザインも、いまではむしろ昭和レトロな愛らしさを感じさせます。まあ、これはあくまで大阪在住の僕の観光客目線な感想でしかないかもしれません。「この前の戦争」と云えば「応仁の乱」を指すほど歴史の深い京都。昭和ぐらいじゃレトロとは呼べないかも。 ただ、再評価すべき点は他にもちゃんとあります。先ずはその構造。日本中の観光地にさまざまなタワーがありますが、京都タワーの造りはひじょうにユニーク。 例えば東京タワーは鉄骨を組み合わせて建っています。ほとんどのタワーがこのタイプでしょう。ところが京都タワーは鋼鉄製の円筒を溶接でつなぎ合わせています。つまり硬い殻に覆われているのです。難しい言葉で言うと「応力外被構造」、簡単に言うと「ほそなが~い卵」。この構造を取り入れたのは京都タワーが日本初。台風や地震にたいへん強いのだそう。 そしてもうひとつ括目すべきは、これ! 一番端のピンク色の垂れ幕をご覧あれ。「ビアガーデン」の反対側ですよ。 「タワー大浴場」「サウナ完備」「年中無休」「地下3階」 そう、京都タワーの地下にはなんと、お風呂があるんです。これは日本中のタワーにひけを取らない特徴、京都タワー先取のポイントでしょう! しかも、 「手ぶらでどうぞ!!」「タオル、石けん、シャンプーなどを揃えてお待ちしております」 思わずエクスクラメーションマーク2度打ちするほど熱烈アピール。京都観光をするのに「いちいちタオルなんて持ってな~い」という方も(ほっとんどがそうでしょうが)、これでひと安心。 いますぐ浴槽にダイブせねば! いや、せっかく京都タワーに来たのですから、はやる気持ちを抑え、ひとまず展望台にのぼってみましょう。 展望台へ誘うエレベーターでは、京都案内のアナウンスが流れます。 これがまたご丁寧に、はんなりとした京都弁イントネーション。「ほな、おおきに~」。はんなりしすぎ、展望台に着く前に腰が抜けてしまいそうどすえ。 さあ展望台に着きました。 うわ~、ナイスヴュー! いい眺めですね~。360度、京都の街をぐるり見渡せます。 窓ガラスには、 「金閣寺」「二条城」「東本願寺」など、名勝史跡の位置がわかるように表記されています。 こうして窓から見ると、京都の街は本当に道路が真っ直ぐに伸びていますね。 縦に「南北」、横に「東西」と見事に区画された街を見おろすと、さすがかつての都、上世の昔からの道路整備技術に圧倒されます。展望台は夜9時までやっていますから、デートにいかがですか? 灯りがスクエアに並ぶ眺めは、他の夜景スポットでは見られない珍しいものですよ。 とはいえ修学旅行生たちは、そんなことはどーでもよさげ。 「おい、下、見てみろよ。こえーぞ」「超こえー!」と大はしゃぎ。 窓を拭くタワーコンパニオンさん。けっこうレアな光景なのでは? 望遠鏡を覗く人々。 なにが嬉しいって、望遠鏡17台がすべて無料なんです。タダ! ロハ! ロハす! 無料で全方位覗き放題。観光はなにかとお金がかかるもの。そんななか、これは嬉しいサービス(展望台の入場料は必要です)。 周回してみるとなおさらよくわかるのですが、京都は三方を山に囲まれており、南側には山がありません。 京都の住所表記は「上ル」「下ル」「西入ル」「東入ル」と、まるで暗号。他都市の人間には理解しにくく、「そもそも西がどっちで東がどっちか、わっかんねーし」と思われるでしょう。そこで京都タワーの出番。京都タワーの背に山がなければ「南」と捉えます。「京都の灯台」と呼ばれる所以は、こういうことでもあるのです。 展望台から見えるのは、京都の名所だけではありません。 隣のつぶれた百貨店……。 そして廃墟化した屋上遊園地……。 京都は雅だけではなく「もののあはれ」を味わう場所。こういう異観もまた、滋味があるものです。デッドストックマニアには、逆に垂涎のお宝的光景かも。 展望台を後にし、階段を下りると、セーラー服のアイドルが迎えてくれました。 たわわちゃんです。たわわちゃんが「あわわ」と言ってそうです。 たわわちゃんは開業40周年を機会に誕生したマスコットキャラクター。 【プロフィール】 名 前 たわわちゃん セーラー服を着ているので、女子高生でしょうか。たわわという名前からしてギャルルにいそうですが。それとも旦那さんの趣味でしょうか(おい!)。こんな丸っこいお手手をしていますが、琴が弾けるのだそう。これは驚き。 たわわちゃんと記念写真も撮れます。さらに、 たわわちゃんが塔内を巡回してくれます。運がよければ、歩くたわわちゃんに出会えます。誰ですか? 逆に運がよければ、出会わずに済むとか言う方は。 彼女はこのようにとてもアクティヴで、他の名所のマスコットたちとも交流を深めています。 また、たわわちゃんと一緒に踊る「タワー体操」なるものまであります。 2番がこれまた、凄いんです。 「どんだけ」って……。 そしてこれが「タワー体操」。 なぜだろう。だんだん元気が、なくなってくるような……。 それにしても、たわわちゃん、みうらじゅんさん言うところのいわゆる「ゆるキャラ」に分類されるのでしょうが、 ゆるいというよりむしろ、 ある種のキツさを感じるのは僕だけでしょうか。 さ、体操で汗を流したところで(流してない?)、いよいよお風呂に参りましょう。 タワー大浴場へおりる階段は、食堂街の端の端。 わかりづらい場所にありますのでご注意。なにやら秘密めいた雰囲気。 ひたひたとくだってゆく階段。 照明のルクスが低く、山間の秘湯に向かっている気分。京都駅前とはとても思えない。 周りは薄暗くても、キャッチコピーはノリノリ。 Good湯ing! 期待がいやおうなく昂まります。 暖簾が見えてきました。 なんという突飛な場所に。立地がこれまたストレンジ。古いオフィスビルの通路に突如銭湯が現れたような、経験したことのない不思議な感銘を憶えます。 番台です。 ビシネスホテルのロビーを思わせるムード。ここでタオルをいただき、浴場へ駆け込みました。 真ん中にインドカレーの「ナン」みたいな形の浴槽がひとつ。同行した女子に尋くと、「女風呂はコーヒー豆みたいな形」で、浴槽の数も同じく、ひとつ。中央の噴水からこんこんと湯が湧きあがっています。広さ的には、「大」浴場はチト言い過ぎかも。 お湯は地下から汲み上げられた水を沸かしたもの。水の質が良い京都のこと、けっこう熱めながら、肌にやさしく沁みてゆくのがわかります。お湯がすっきり澄んでいて、本当に気持ちがいい。 ここもそうですが、京都は他の関西圏に較べ、銭湯のお湯が熱めです。サウナも熱い。温度計は100度を越えていました。東京と同じくらい熱い。お風呂に入るのは癒しが目的なのではなく「清め」と「矜持を正すため」だという“都”民性の表れなのかもしれません。 爽快な気持ちになってタワーを出てみれば、外はもう暗くなっていました。 夜の京都タワーもなかなか情趣があります。素晴らしい眺望があり、かわ……いいキャラクターがおり、ビリー隊長も裸足で逃げ出す脱力体操があり、そしてGood湯ingな温泉がある。わずかな時間で、凄い充実度。京都タワー・オブ・パワーを感じました。 「京都タワー大浴場」 住所:JR京都駅の目の前 ▼おまけ なんとなく肩身が狭かった舞妓Haaaan 土産物屋で売ってたワンちゃん用 新撰組コスチューム text by 吉村智樹 | 2007.06.29 | [ 「京都のお風呂もよろしおすえ」 ] | 固定リンク | コメント (0) | トラックバック (0) 2007.06.14第1回:嵐山で「ふっとばす!」「京都のお風呂もよろしおすえ」 by 吉村智樹京都は、言わずと知れた観光のメッカ。寺社仏閣や史跡が多く、嵯峨野の竹林のさわさわした葉ずれの音が心を落ち着かせます。いまの季節だと、あじさいや菖蒲の気品ある色香が目に優しい。夏には祇園祭で街中大盛りあがり。酷暑を吹き飛ばすハモ料理も絶品。秋は紅葉、冬は湯豆腐、京都はいつ訪れても間違いなく楽しめる、絶対すべらない場所です。クドカン脚本の映画『舞妓Haaaan!!!』も話題となっていますし、京都の旅を計画されていらっしゃる方も多いのではないでしょうか。 しかし京都へ「お風呂に入りに行く」人は、まずいません。観光地ではあるけれど、温泉地ではないから。祇園や宇治を洗面器抱えて歩いている人なんて、まー見たことがない。 でも実は、京都にも「え? こんなところに?」と驚くユニークな湯どころがたくさんあるのです。この連載では毎回、京都のアメイジングおふろスポットを紹介してゆきます。京都の景勝地はとかく「歩いて歩いて歩き倒す!」場所が多いですから、観光コースにお風呂を加え、疲れを癒していただくといっそう京都の旅が楽しくなること、これ請け合い。 第一回目は、嵐山。 嵐山は花の名所として知られ、四季折々の自然の美しさを堪能できます。またバブル時代は「タレントショップの総本山」としても名を馳せました。「修学旅行で嵐山に行って、ジャニーズショップで光GENJIグッズ買い漁ったわ~。ていうか、それしか憶えてないわ~」という方もおられるのでは? 嵐山で先ず目につくのが、渡月橋。立派な木造の橋から見渡す保津川は、一幅の水彩画を見るよう。 そしてさらに桂川をまたぎます(渡月橋は2本の川をまたぐ珍しい橋なのです)。遠くにはボートでゆうらり遊ぶ人たちの姿が。 桂川は平安時代から貴族が船遊びを愉しむ場所でした。いまもボートに姿を変え、その歴史が遺っているんですね。 取材したのは5月末でしたが、もう初夏の陽気。水浴びをする子供達の姿も見られます。 ここは平安時代から暑さをしのぐため川に飛び込む場所……だったかどうかは知りません。 渡月橋名物といえば、人力車。 俥夫の兄ちゃんたちが、えいほっと颯爽と街を駆け抜け、車を曳きながら観光案内をしてくれます。ガイドと運転手を同時に行うなんて、これもまた京都のアルチザン、匠の技。 珍しい光景に出くわしました。 なんと人力車の研修。第四段階の路面講習? 仮免許段階?(というか、人力車にもやっぱり運転免許がいるのだろうか)。こういうサプライズに出くわすのも、京都観光の醍醐味。関係ないですが京都には「醍醐」という地名があります。ほんとに関係なかったですね。 京福電鉄「嵐山」駅に着きました。 一見、社務所を思わせる勇壮な造り。「日本の駅100選」にも採択されています。嵐山駅が立派なので、この路線は地元の人々から「嵐電」(らんでん)のニックネームで親しまれています。カッチョいい。アイアン・メイデンみたいで。駅前に渡月橋を模した小さな橋が架けられているのが、なんともかわいい。「橋のフィギュア」と呼びたくなる。 駅に入ってゆくと、気になる看板が。 『嵐山温泉 駅の足湯』 そう、連載第一回目に紹介するおふろスポットは、この駅舎のなかにあるのです。ここから電車で移動するわけではありません。2004年、駅構内に足湯が誕生したのです。 切符売り場で150円を払い、改札を通り抜けます。京福電鉄は乗車賃200円均一の路面電車ですが、「150円で入浴のみも可」です。「急に足湯だなんて言われても、タオルなんか持ってきてないよ~」と思われるかもしれません。ご心配なく。入泉料とともに、 ロゴ入りのタオルがもらえます。クールな、いいデザイン。 プラットホームに、小さな湯殿が現れました。 「ゆ」という暖簾の両脇に、線路が伸びています。シュ、シュールな景色……。 小さくてよく見えないかもしれませんが、玄関にお地蔵様が立っていらっしゃいます。名前は「ふれ愛地蔵」。利用者10万人突破記念に奉られたもので、額にはハートマークが彫られています。ハートマークか~、せっかくならピンク色に塗ってほしかった。モモレンジャーみたく。 暖簾をわけて小屋に入ってみると、すでに先客が並んでいました。 みんな、顔色がほこほこと上気。いい感じに、コンパ状態。定員は16名だそうです。いかがですか? 8対8で。 さっそく足をひたしてみました。 お湯は約36度、弱アルカリ性の単純泉。水道水ではなく、ちゃんと地下から汲み上げています。 はじめは「ぬるめかな?」と思ったんですが、じわじわぬくもりが湧き上がり、10分後には額に汗するほどでした。全身をお湯につかったかのよう。ほっかほかだよ、おっ母さん。実際、10分がもっとも入浴に適した時間とのこと。とはいえ時間無制限の「ひたし放題」なので、各自お好きなバスロマンタイムをお楽しみください。 珍しい駅の足湯。最大の特色は、入浴中に電車とすれ違うこと。 浴室のそばを、電車が走り抜けてゆきます。乗客と目があった時は、さすがにコッ恥ずかしかった。 ひと心地ついたし、さぁ、出よう。 嗚呼、なんて気持ちいいんだろ。気候に恵まれたこともあって、ほてった身体を薫風がなでてゆく爽やかさは、こたえられません。ここに来るまでにけっこう歩いたのですが、疲れはきれいさっぱりクリーンアップされていました。それにたとえ足湯であっても一応「混浴」ですから、ちょっとドキドキしましたね。快い、いい昼下がり。リフレッシュしました。 リフレッシュしたのは、お客さんだけではありません。この嵐山駅は2002年に併設のレディースホテルが閉鎖となり、しばらく寂しいムードが漂っていたのです。路面電車は地元の人しか使わない、観光客はなかなか乗らないですから。しかし足湯ができたことで再び賑いを取り戻し、まさにリフレッシュしたのです。 さっぱりして駅から出ると、陽が落ちかけ、空がいい色に。 取材日はちょうど嵯峨祭の真っ最中。シンボルである菊鉾が天高く貫き、影が右に左に躍動していました。こういう景趣に出くわすと、「あー、いままさに京都に来てる俺!」と胸が踊ります。 京都は年中なんらかのお祭りが開かれています。名所めぐり、お祭り、そしておふろ、この3連コンボを欠くことなくプランニングすれば、きっと想い出に残るいい旅になるでしょう。おふろの旅、よろしおすえ。 『嵐山温泉 駅の足湯』 営業時間:9:00~20:00 text by 吉村智樹 | 2007.06.14 | [ 「京都のお風呂もよろしおすえ」 ] | 固定リンク | コメント (0) | トラックバック (0) |














































































































































































































