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2004.12.14

第6回:新潟・これから…。心を癒す宿「万座温泉ホテル」

隠れ家名湯・旨酒探訪 by 吉野 斉(よしのいつき)

早いものであっという間の第六回です。吉野斉の「いい湯旨酒」コラム、最終回は予定を変更して「お酒を飲まない」ちょっとまじめな温泉話を。

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万座温泉ホテルの「極楽湯」



このコラムを連載中に、新潟で大地震が起きました。多くの命が失われ、多くの人が今極限の状態での生活を強いられています。前回のコラムでも書いたとおり私はこの夏、一瞬だけ新潟に足を踏み入れました。緑豊かな美しい土地でした。魚沼郡をとおり関越道へ。私がたどった道のりは、今まさに震災で揺らいでいる場所です。壊れたのは家や橋や高速道路だけじゃない。むしろ一番の傷を負っているのは人の「心」です。

どうしてこんな話を急に書くのか、それには理由があります。私が貧乏フリーライターながらも何故温泉に足繁く通っているのか? 実は吉野斉と温泉とのつながりとも関わっているのです。

私は解離性障害という病気を患っています。「PTSD」という言葉をご存じの方も多いかと思います。阪神大震災のあとに多くの被災者がトラウマによる心的障害を訴えたことは記憶に新しいでしょう。 PTSDは「心的外傷後ストレス障害」の略で、自然災害や戦争、犯罪などの被害にあった人など大きなトラウマ体験をした人に発症する可能性のある障害です。そして「解離性障害」はPTSDの中でも症状が複雑なC-PTSD(複雑性PTSD)の患者が発症することの多い障害です。

解離性障害は大災害・戦争・犯罪…自らの命を脅かすほどの強烈なトラウマを体験をした人に発症する可能性があると言われています。またトラウマ体験が幼いときのものであるほど発症しやすいと言われています。私の場合はある犯罪の被害にあったことが原因です。

今、新潟で多くの方々が被災されています。小さなお子さんも多くいらっしゃいます。家屋が倒壊して助け出された方。苦しい避難生活を送られている方。厳しい冷え込みの冬、精神的にギリギリのところで自分を保っている方。被災者の方の中で心のバランスを崩し数年後にPTSDや解離性障害を発症する方はきっといらっしゃるでしょう。

吉野斉は解離性障害の中でも解離性同一性障害と呼ばれる症状を患っています。この障害は今の日本の精神医学では治療の方法がないと言われています。実際、私は主治医から「治療する術がない」と告げられました。専門医を訪ねても答えは同じでした。

毎日襲う発作や辛い症状。どうしていいかわからなくて明日も見えなかった時。家人が何も言わずに車を走らせてくれました。到着したのは湯治場をかねた群馬県の温泉・万座温泉ホテルでした。万座温泉ホテルには「万病を治す」と言われている「苦湯」をはじめ九種類の温泉があります。苦湯の効能はいろいろな方が難病を克服した体験からも分かるとおり、とにかく「効く」と実感できる温泉です。

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万座の名湯「苦湯」

私は関東では万座に勝る名湯はないと思っています。効能に「脳病(つまり昔の言葉で神経衰弱=精神病)」と書いてあるのをはじめて見たときには、思わずウケて写真をとったりしてしまった吉野ですが、今考えると申し訳ない位です。万座のお湯は私の心を確実に癒してくれます。別天地のような大自然と、豊かな温泉。
万座温泉ホテルに物質的な贅沢を求めてはいけません。贅沢するための旅行だったら高級旅館に泊まればいい。万座温泉は湯治場です。いわば病める人のオアシス。心の泉ですから。(ね、オーナーの泉さん!)
万座温泉ホテルでは食事にも一工夫。「まごわやさしいご飯」と銘打って「豆・ごま・わかめ・野菜・しいたけ・芋」を材料にヘルシーな夕食が食べられます。これも湯治メインの温泉ならでは。毎日温泉療養しながら、栄養にも気を配った低カロリーのお食事が食べられます。またこの夏には体が不自由な方のための貸し切り温泉もできました。
本当の意味での「こころの贅沢」を用意して、いつでも待っていてくれる。それが万座温泉ホテルです。

治療法もなく、毎日の症状になす術もなく、それでも希望を持って生きていたい…。病気に翻弄されていた私が最後に助けを求めたのは「温泉」だったのです。今でも私は足繁く万座温泉へ湯治に通っています。

今から5年後、10年後。私の病気は治ってはいないでしょう。
今から5年後、10年後。新潟で被災した子ども達が大人になる頃。
被災した子ども達の中には解離性障害を発症する子がいるでしょう。
そのことを思うとものすごく苦しくなります。
その時、治療法が確立されているのかどうか。私には分かりません。

けれど、そのときも温泉は変わらずあるでしょう。
人々が季節を感じ、お湯を愛で、体を癒す場所。
そして何より「心を癒す場所」。

新潟の被災者の方々が一日も早く穏やかで何も起こらない日常に戻れることを祈っています。
様々な病を抱える方々が、いつもどこかで温泉に癒されている。
そんな穏やかな温泉列島・日本でありつづけてほしい。
いろんな願いを込めてこのコラムを終えます。

吉野斉はいつもどこかで放浪旅人していますよ。
焦らずぼちぼちお湯でも入ってこくりとな。

吉野 斉

「万座温泉ホテル」のHPへ
@nifty温泉「万座温泉ホテル」詳細ページへ

text by 吉野 斉(よしのいつき) | 2004.12.14 | [ 隠れ家名湯・旨酒探訪 ] | 固定リンク | コメント (2) | トラックバック (0)

2004.12.01

第5回:吉野斉の止まらない旅!? 尾瀬檜枝岐温泉「かぎや旅館」

隠れ家名湯・旨酒探訪 by 吉野 斉(よしのいつき)

吉野斉のジェットコースター旅人ライフ 
福島の大黒屋さんの近くでは初冠雪が見られたとのメールが届きました。ついに冬到来。そろそろ冬眠したい吉野斉の「いい湯・旨酒」コラム、第五回です。どうぞよろしく。

今回は私のこの夏の流れ旅を紹介することにします。
ある朝「今日は旅に出よう」と思い立ちました。思い立ったが吉日、十五分で旅に出られる身軽さが自慢の私は、早速北へ向かって出発しました。私の仕事はフリーライター。最低限、携帯とノートパソコンとネット環境さえあれば何処でも仕事はできるのです。携帯でクライアントさんと打ち合わせ、エアーエッジを使ってネットで調べ物をし、ノートパソコンで原稿を書き、e-mailで納品。これは電車でも車の中でも温泉宿でもできます。電波が入る場所なら、野宿してても仕事はできます。インターネットの恩恵恐るべし。そんなわけで私は旅に出ながら仕事もしているわけです。そこまでして旅に出るか?とたまに言われますが、放浪してるのが好きなんです。だから追わないでください(笑)。

というわけで、ある夏の日。私は北に向かいました。最初は1日で帰るつもりで栃木某所に投宿。ところが、この宿がどうも気に入らなかったのです。客がほとんどいなかったせいかロビーの電気は消えていて、なんとも寂しい。露天風呂は三カ所あるのにも関わらず、一カ所はぬるま湯。一カ所は熱すぎて入れない。かろうじて入れた露天は道路の真横で車がびゅんびゅん走る中、電線がもの悲しくゆれていました。
どうしようもなく悲しくなってしまった私は「このまま帰ってなるものか」と奮起してしまったのです。そして次の日、私は北上していました。こうなったら止まりません。次の日は福島に入り、なかなかいい宿に泊まりました。ごきげんになってさらに北上。そして素泊まり。次の日、突如三陸海岸を見たくなり、海を目指しました。ところが。思えばここが運命の分かれ目でした。走れば走るほど緑こく山深くなっていくではないですか。
「もしや…?」
そうなんです。私が向かっていたのは日本海方面。み、道間違えてるじゃないか、しかもこんなところで!!
三陸海岸も太平洋もさようなら。ここで私のロックかつジェットコースター的な性格が炸裂しました。
「よっしゃー。待ってろよ、日本海!!」
というわけで私は山の奥へ奥へと突き進むことになります。

とはいえ東北地方を横断するとなるとかなりの距離があります。日が傾いてきた頃、私はちょっと不安になりはじめました。
「この辺でどこか泊まったほうがいいかな。。。」

その時。道路標示の「檜枝岐」の文字が目に入りました。檜枝岐村といえば、確かそば料理で有名な温泉地。これは…いくしかない。
そうして私は檜枝岐村に入ったのでした。

あたたかい山村。昔がそのまま残っている場所

檜枝岐村は尾瀬の玄関口。福島側から尾瀬に入る旅人は昔から檜枝岐村に宿をとったそうです。車を降りて空気を吸うと、緑の匂い。村は時間の流れを忘れさせるような不思議な魅力を持っていました。村の真ん中を川が流れています。川沿いの道を少し歩いてみると、小さな神社が目につきました。鎮守のかみさまだ、お参りしていこう。この神社では一年に数度「村歌舞伎」が行われ、その日は毎年全国から見物客が集まるそうです。境内には歌舞伎舞台があり、本殿にあがる階段が歌舞伎見物の際にはホール状の客席に早変わりする造りになっていました。
私は以前巫女の仕事をしていたことがあります。そのせいもあり、鎮守さまが村人に愛され伝統が村に息づいていることが嬉しくなり、笑顔満開になってしまいました。

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すがすがしい山里の宿・かぎや旅館
 「もしかして今日は寝袋かなぁ。テントを張れる場所あるかなぁ」
と不安に思いつつ、飛び込みで宿を探すことにしました。せっかくなら、この村のあたたかさを存分に感じさせてくれるような宿がいい。そう思いながら歩いていると手作り風の「かぎや旅館」という看板を見つけました。小さな宿だけど、飾らない風情。山里らしいこじんまりとした雰囲気に惹かれ、私は中に入りました。
「あのぅ、今日、泊めてもらえますか?」
中から若旦那さんと若女将さんが顔を出し、にっこり笑って
「いいですよ」
と答えてくれました。よかったー!!

早速、私は部屋に案内してもらいました。廊下の板目がキレイです。階段を踏みしめると小さくきしむのも懐かしい音です。懐かしい。そう、古い校舎を思い出すような感覚です。夏休みに田舎のおばあちゃんの家に遊びにいった時のようなノスタルジックな感傷をおぼえました。それは多分、木のやさしさ。
建物自体は古くても、隅々まで細やかに磨かれた廊下や階段はすがすがしく、やさしい。踊り場にはあざみの花が飾ってあり、宿の方々の気配りが感じられました。

お茶をいただきながら話をきくと、ご自慢の総檜風呂があるとのこと。これは嬉しい!長距離移動で疲れた体を癒そうと、早速お風呂へ。
内湯ののれんをくぐると私は「うわぁ」とため息。内湯にふんわりとたちこめる檜の香り。本物の香りです。あまりにもいい匂いで、私は大きく深呼吸。
それから檜風呂につかってのんびり。お湯はさらさら、檜の香りに包まれて、とっても気持ちいい。湯煙の中で檜の木が生きています。ここでも感じたのは「木のやさしさ」。良いお湯にめぐりあえた幸せをかみしめながら、ゆっくり湯を楽しみました。

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女将さんの作るそば料理はここだけの味!
 湯を楽しんですでに上機嫌の私は、夕食をとるため食事処へ向かいました。嗚呼、いい湯旨酒。あとはお酒が飲めたらそれで満足。そう思いながら食事処に入ると、おおきな囲炉裏で岩魚があぶられています。野趣満点。興味津々で食事が運ばれてくるのを待ちました。

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運ばれてきた小鉢の山菜は食べたことのない味。歯ごたえがあり、アスパラガスのような甘みもある。ミヤマイラクサという山菜だと教えてもらいました。
「今、季節なんですよ」
この初対面の山菜、本当においしいんです。
それから「自家製豆腐そばの実がけ」。とろりと甘くて上品。これも美味しい!

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かぎや旅館さんのお料理は女将さんが作っていらっしゃるとのこと、珍しいものが運ばれてくるたび「これはなんですか、おいしいですねー」を連発する私に、女将さんは照れていらっしゃいました。
宿自慢の蕎麦料理は檜枝岐村でしか食べられないものもあるとか。そばを使った味噌味のすいとんのような「つめっこ」や、そば粉を練って甘く味付けした「はっとう」。

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そして名物「断ちそば」。断ちそばはつなぎを使わないそば粉100%のお蕎麦。布を裁つように切ることからこの名前がついたそうです。しっかりした蕎麦の風味が味わえます。そば好きにはたまらない蕎麦づくしのお料理。日本酒党で大の蕎麦好きの私は、断ちそばをつるりとすすり、とても幸せな気分になりました。

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かぎや旅館では地酒「清酒檜枝岐」と「生酒 尾瀬ごころ」が味わえます。どちらもかざらない朴訥さが魅力。「尾瀬ごころ」は生酒らしい甘さがあります。「清酒檜枝岐」はくせのない辛口。好みにあわせてお好きなほうを。

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またこの宿は「日本秘湯の会」の会員宿でもあり、「秘湯の宿」限定の「秘湯ビール」も冷えています。ビールが飲めない私も物珍しいのでちょっと味見。どちらかというとピルスナー系?と感じましたが、ビールに疎い私はビールのコメントには自信がありません。限定ビールなので興味のある方はぜひお試しください。寒い季節になったので「岩魚の骨酒」もおすすめ。

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突撃日本海!?

翌朝、かぎや旅館の大旦那さんといろいろ話をしました。お料理を食べていて小さな頃を思い出したこと。この宿に泊まれてとても嬉しかったこと。かぎや旅館の皆さんは全員で手を振って送り出してくださいました。本当にあたたかい気持ちになる宿でした。

笑顔満開。気分爽快。抜けるような青空に私は胸ときめいていました。
「ビバ日本海!待っててね、佐渡」
走る車。変わる景色。はやる心。もはや止まらない旅。こうなったら海を渡ろう!

そして。ついに新潟入り。あと少しで日本海。
かなり興奮しながら、日本海の見える露天風呂のある宿を探していた私の携帯が鳴りました。お仕事仲間のデザイナーさんでした。
「お疲れ様ですー、今どこですか?」
「え…えっと新潟です。。。」
「…ま、またですかっ!? で、今日の夜打ち合わせできます?」
「今日の夜ですか………

……分かりました。帰りますっ!!」

日本海への憧憬はここで崩れ去りました。
働く旅人・吉野斉。打ち合わせとなればどこからでも飛んで帰るのです。
その日の夜、私は何事もなかったかのように東京で打ち合わせに臨んだのでした。

それが今年の夏、止まらない旅路での出来事でした。
止まらない旅路で出会った「懐かしい宿」…(了)

■尾瀬檜枝岐温泉 かぎや旅館
かぎや旅館HP
@nifty温泉「檜枝岐温泉 かぎや旅館」詳細ページへ

★写真協力:かぎや旅館様

text by 吉野 斉(よしのいつき) | 2004.12.01 | [ 隠れ家名湯・旨酒探訪 ] | 固定リンク | コメント (4) | トラックバック (0)

2004.11.16

第4回:奥秩父の地酒を存分に愉しむ!「御宿・竹取物語」

隠れ家名湯・旨酒探訪 by 吉野 斉(よしのいつき)

「大人の隠れ家」って…

 驟雨とともにどうやら秋は去ってしまったようです。気がつけば冬の足音。皆さん、この秋はもう温泉に出かけましたか?吉野斉の「いい湯旨酒」コラム第四回、どうぞよろしく。
テレビをつけると温泉番組ラッシュ。本屋に行けば温泉本が平積みに。そう、この季節日本人は心も体も癒されたがっているのです。しかし…この頃吉野はよく思います。
「“大人の隠れ家”ってコピー、もうそろそろ飽きた。。。」

数年前からはやりだしたこの言葉。最近濫用されすぎだと思うんですよね。どこもかしこも「大人の隠れ家」。ってホントに隠れてんの?と突っ込みたくなります。では、これに代わる言葉がないものか。しかし考え出すとこれが難しい。いやらしくない絶妙なバランスの言葉なんですね、これが。

なぜ、こんなことを私がいきなり書くのかというと、今回ご紹介する宿も「大人の隠れ家」とおすすめしたい宿なんです。それは奥秩父の「御宿 竹取物語」という割烹旅館。
今日だけはお子様はお留守番。恋人同士、夫婦で、または秘密旅行で(ウフ♪)。特別な時間をふたりで静かに過ごしてほしい。そんな隠れ宿なのです。

入り口すら隠れてる?「竹取物語」を探せ!

 御宿 竹取物語は奥秩父荒川村の入り口にある。浦山渓谷を懐に抱く竹林の中のお宿。こだわりの割烹旅館だ。しかしお宿にたどり着くには、まず竹取物語よろしく竹林を探すこところから出発しなければならない。というのもこのお宿、道路からはまったく見えない、国道を曲がった田園風景の奥にひそんでいるからだ。初めて行く方、国道沿いに「御宿・竹取物語」という看板を見つけたら疑わずにそこを曲がってください。私は何度か迷子になりました(笑)。
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国道を曲がるとぶどう農園があり、その先に竹林の玄関がある。全6室の静かな隠れ宿。玄関を入るとモダンな内装。光をいっぱい取り入れた廊下からは竹林と渓谷が眺められる。ロビーは夜はバースペースになる。隠れ宿の夜はこだわりのバーに早変わり。
「素敵!」と早くもフライングする自分を抑えつつ、お風呂に向かった。

竹の緑に包まれて、ふんわり未体験の温泉へ 

竹取物語の野天風呂は竹林の中にある。私は竹林が好きだ。とくに雨があがったあとの竹の青がたまらなく好きなのだ。野天風呂は大小二つの樽型。私は小さいほうの樽風呂に入った。全身つかると、ふわーっと体が浮かぶ感覚。同時にふっと安らぐ気持ち。なんだろう。温泉好きの私だが、こういう感覚のお風呂ははじめて。竹林の中で、ふんわり宙にういているような不思議な感覚なのだ。それでいて、体中がぽかぽかあったまってくる。
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お風呂から出ると早速おかみさんに聞いてみた。
「炭酸泉という独自のお湯なんですよ」
この炭酸泉は装置で人工的に作られた物で、いわゆる温泉とよばれる地中から湧出するもの ではないが、天然にも勝るという。 人工炭酸泉をお風呂に利用している宿は、世界中見渡しても、まだ、数えるほどしか無いとか。
「不思議な感覚ですね」
と話すと
「子宮の中にいる感じと言われるんですよ」
とおかみさん。

確かに。ふわーっと浮かんであたたかくて安らぐ。思わぬところで子宮体験。
大小の樽風呂と内湯はそれぞれ炭酸濃度と温度が違うので、それぞれ試すのも楽しい。温度が低めなのに不思議とあたたかく、長湯していられそうだ。

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こだわりを極めるとこうなる。すべて手作りの絶品料理!

 夕食の時間、私にはいくつも楽しみが待っていた。
まずこだわりのお料理、それから豊富な地酒。ここでは厳選の地酒八銘柄の中から三種類選び、利き酒セットとして楽しめる。竹の香りを楽しみたい人は竹酒を。香りを逃がさないように、注文が入ってからご主人が竹を切り徳利とと猪口を作ってくれる。竹酒を試したい人はご予約を。
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そして意外に知られていないのだが、この宿には豊富なワインも揃っている。ワインセラーにも美酒が並んでいますよ。お料理はワインとの相性もよいので、ワイン好きの方はぜひワインを飲みながらお食事を!
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 料理はすべて手作りで土地のものを味わってもらう。そのこだわりぶりはさすがだ。先付けのヒメマスの薫製と自家製生ハムはご主人の手作りで、何時間もかけて燻しあげた手の込んだ逸品。どちらも深みのある味わい。生ハムのチーズ和えを食べるとワインを飲みたくなる。利き酒セットを注文したばかりの私、ワインにしておけばよかったかなとちょっとだけ後悔。
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自家製くるみ豆腐はお宿の一押し。ぷるぷるのクルミ豆腐もご主人の手作り。口の中で甘みとくるみの食感が広がる。味は高野山のごま豆腐に近い。次は秋を感じさせる一品「きのこの素焼き」。秋の味、きのこをふんだんに使い、卵を使ってふんわりと焼き上げたもの。和食のような洋食のような不思議な味で、これがまたおいしい。やわらかではんなりした味わいの中にきのこの食感。秋ですね。
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秩父の厳選地酒。利き酒を愉しむ。

しばらくすると色鮮やかなガラスの猪口三つと地酒が運ばれてきた。お待ちかねの「利き酒セット」だ。
「料理にあうものを三種類おまかせで!」
とわがままな注文をした私。どんなお酒がくるのか楽しみに待っていた。まず一口ずつなめる。「辛口」と「あっさり」と「上品」の三つの味が出そろい、綺麗なガラスの猪口が光を映し出す。
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 まずは和久井酒造の「秩父自慢」。まずは一杯、こくり。強い辛みと押しの強さがあり、辛口好きの私にはたまらない。次は矢尾本店の秩父錦吟醸酒「升屋利兵衛」。こちらはあっさりとした味。少ししてさわやかな香りが残る。最後は柳田総本店の「武甲正宗・純米酒」これは旨い!!まろやかな口当たり、しっかりとした旨味。辛さが口の中に残る。地元の「若水」というお米を使って作られているようだ。どのお酒も個性があり、とぎすまされている。地酒の品揃えも酒好きのご主人のこだわりのなせる技だろう。特に「武甲正宗・純米酒」には参りました。思わず「幸せ~」と笑顔になってしまいます。
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大吟醸用の専用グラス。透き通った中に銀箔が光り、とても綺麗。


お料理の中でも「栗の渋皮煮」は脱帽ものです。これを作るにはとても時間と手間がかかるそうですが、季節の味を凝縮した上品な一品でした。「山の宿では山のものを」というポリシーで、お造りはひめます、焼き物は「紅鱒の竹皮包み」と山の素材を使うことに徹底。陶板でいただく蒟蒻はご主人のお母さんの手作りだそうだ。くさみがなくてぷりぷりと歯ごたえが嬉しい。お酒も進みます。綺麗なグラスの数々は地元のガラス作家さんに作ってもらったオーダーメイド。ビールのグラスはほどよく泡がたち、唇のあたる部分がなめらかな曲線を描いています。
美味しい酒を呑む。美味しく酒を愉しむ。その時間を大切にする。あらゆるところにこだわりと気配りが感じられ、酒のみの心をくすぐるのです。

食事処の「月み野」からはライトアップされた林が眺められ、雰囲気もしっとりと落ち着いている。この空間には大事な人とゆっくり語らう夜が似合う。時間をかけてお料理を楽しみ、それぞれの好きなお酒を楽しむ。日本酒だけでなくワインセラーの中身も要チェック。ワイン好きの私はワインにも心を奪われ、めろめろでした。もちろんビールも特製グラスで飲めます。お湯上がりの最初の一杯には美味しい生ビールを。

シングルモルトで更けゆく竹取の夜

「月み野」でのお食事を終えたら、竹取の湯から月見の湯浴み。豊富な自然に囲まれた露天でさらさらと竹の葉がそよぐ音を聞いた。騒がしいものは何もない。思う存分お湯に「浮かんで」月を眺めていた。
 お風呂上がり、まだ飲みたいと思ったら、ご主人こだわりのバースペースへどうぞ。こちらはシングルモルトのウィスキーばかりを集めたバースペース。半日かけて燻しあげた「ひめますの薫製」は、最高の肴です。

竹取の夜は、物語よろしく「夢見心地の月見酒」。つかの間浮世を忘れて過ごしたい。
そばに大事な人がいればいうことなし。願わくば、朝になっても醒めない夢を…(了)

奥秩父温泉郷 「御宿 竹取物語」

一泊二食 13200円~
西武秩父駅より送迎有り
御宿竹取物語HP

text by 吉野 斉(よしのいつき) | 2004.11.16 | [ 隠れ家名湯・旨酒探訪 ] | 固定リンク | コメント (6) | トラックバック (0)

2004.10.29

第3回:白河の地酒「千駒」を呑む!甲子温泉「大黒屋」

隠れ家名湯・旨酒探訪 by 吉野 斉(よしのいつき)

秋深し。温泉列島日本に何を求める?

 今年の秋は難産でしたね。いくつもの台風に耐え、ようやく秋らしい晴れ空が見られるようになりました。秋といえば日本酒は新酒の季節。頬にあたる風が冷たくなると、いてもたってもいられずに旅に出る私です。酔いどれライター吉野斉の「いい湯旨酒」コラム第三回、どうぞよろしく。

 温泉列島日本。この季節になると誰しも「温泉でもいきたいなぁ」とつぶやいたりすることでしょう。温泉に求めるものは時に応じて様々。秋の味覚を存分に食し温泉につかるもよし。日頃の疲れを忘れ、つかのまの非日常に身をまかせるもよし。私などは毎日が非日常なので問題外ですが、それもよし(笑)。
 温泉といえば本来、体の悪いところを癒す力を持ったお湯。温泉ときってもきれないのが「湯治」と呼ばれる温泉療養です。何日も宿に逗留し、お湯につかり体を休め、静養する。湯治は温泉の力を実感する機会です。かくいう私も虚弱なので湯治目的に温泉に行くことが多いのですが、その中でも「病んだ体を癒す」パワーがすごい!と感じた温泉がいくつかあります。今回はその中の一軒、阿武隈川源流の山奥に佇む一軒宿「甲子温泉・大黒屋」をご紹介します。


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阿武隈川をさかのぼり、山奥の一軒宿へ。
 
 甲子温泉大黒屋は東北道白川インターから車で40分ほど走った山奥にある。阿武隈川をさかのぼり、緑いっぱいの道をひたすら走ると大黒屋につきあたる。国道はここでゆきどまり。大黒屋は阿武隈川沿いにたっており、車をおりると水音が心地よい。登山道の入り口でもあるこの宿、建物には無駄な飾り気がない。しかし、建物に入るとすぐに宿の魅力が分かる。
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本館から離れを臨む

「はい、いらっしゃいませー」
まるで気取らない仲居さんが福島なまりのあたたかい言葉で旅の労をねぎらい、部屋に通してくれる。
「寒いでしょう?こたつに入ってあたたまってくださいね」
部屋に入ると炬燵があたたまっている。おばあちゃんの家に帰ってきたような、ほっこりした気持ちにさせられる。


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ノイローゼの若者が笑い出す!? 名湯「大岩風呂」
 
 大黒屋についたらまずはお風呂に入らなくては!大黒屋の「大岩風呂」は川の岩盤をくりぬいて作られたとてつもなく大きな岩風呂。深さは120センチもあり、立ったまま入浴する珍しいお風呂だ。湯小屋にいくには長い階段をおり、阿武隈川にかかった橋を渡り、対岸へ。混浴の「大岩風呂」と女性用の岩風呂がある。とにかく「大岩風呂」へざぶん。胸のあたりまで湯につかる。ぬるめのお湯でとてもやわらかい。長くつかればつかるほど、体がほぐれていく。

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大黒屋の温泉は無色無臭のなめらかなお湯で全国でも稀な石膏泉。このお湯は「ノイローゼの若者が3日で笑い出す」と大学の先生が勧めるほどの名湯。脳神経の病や、頭痛、胃腸病、皮膚病にとくに効能があるという。私もストレス性の病を持つ身なのだが、大岩風呂にゆっくりつかると、とても朗らかな気持ちになるから不思議だ。宿の方に聞いてみたところ、大岩風呂の浴場のマイナスイオンの値が通常より何十倍も多いということが分かっているのだそうだ。マイナスイオンも効能に一役かっているのだろうか。
 なめらかでやわらかい大岩風呂のお湯はいくらでもつかっていられそうだ。足もとの岩盤からは時々あぶくが沸いてくる。湯小屋の窓からは阿武隈川の渓流が見える。このお湯にしてこの環境、湯治にはもってこいに違いない。

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名湯・大岩風呂。他に男女別の内湯・露天風呂もある。

阿武隈の清水が産んだ地酒「千駒」を呑む!
 
 すっかりほっこり上機嫌の私はお風呂を出ると売店へ。部屋からの眺めもいいし、ちょっくらこっくりいきますか。大黒屋には白河の地酒「千駒」が揃っているので生酒を買って部屋へ。おおらかな山の緑と空を眺めてこくり。水の綺麗な土地のお酒は旨い。「千駒」は一口含むと甘い香り。少しあとにコク。お米の味がしっかりと広がる。媚びず、飾らず、おおらかで。この宿みたいだ。秋晴れの空は高く、空を見上げながら酒を呑むのもいいと思った。


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 夕食は食事処で。夕食は山の恵みを活かした滋味あふれる郷土膳。阿武隈源流の岩魚の塩焼き、どこか懐かしい焚き合わせ、茶碗蒸し…これも湯治客にはもってこい。無花果(いちじく)の黄身衣揚げは彩りもあざやかでおいしい。ゆっくり流れる時間。ゆっくり呑む酒。次第に体があたたまってきたところで、ぼたん鍋。猪肉は臭みがまるでなく、これならぼたん鍋が苦手な人もおいしくいただけそうだ。

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 地酒は四合瓶なら「千駒 原酒」「千駒 純米酒」「千駒 にごり酒」も呑める。燗酒も「千駒」。きれいな水とその水で育った米が産んだ日本酒らしい味わいを存分に楽しめる。

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 私は部屋に帰り、酒を呑みながら窓際で待った。大黒屋でのひそかな楽しみがもうひとつあるのだ。夜遅くなると、野生のテンやハクビシン、タヌキが宿の近くまで遊びにくるのである。待っているとハクビシンが現れた。ここは山の中。阿武隈川源流の山奥。そのことをかみしめ、もう一杯。
 それから何より、この宿の宝物「大岩風呂」に今日も多くの人が癒されたことに乾杯!(了)

元湯甲子温泉 旅館大黒屋

福島県西白川郡西郷村大字真船字寺平1
TEL 0248-36-2301
※予約は電話予約のみ。
東北本線白河駅より送迎あり。

一泊二食 12750円~

@nifty温泉「旅館大黒屋」詳細ページへ

text by 吉野 斉(よしのいつき) | 2004.10.29 | [ 隠れ家名湯・旨酒探訪 ] | 固定リンク | コメント (5) | トラックバック (0)

2004.10.16

第2回:かけながしの湯宿でワインを呑む!那須高原「山樹庵」

隠れ家名湯・旨酒探訪 by 吉野 斉(よしのいつき)

秋本番、酒の季節到来。
 秋本番。そろそろ紅葉の噂もちらほら聞こえてきます。秋から冬へ。人々が温泉を求めるこの季節は、酒の季節でもあります。実りの秋、食べ物がおいしくなると当然お酒も旨くなるのです。この季節こそ「いい湯旨酒」です。酔いどれライター吉野斉の旨酒探訪コラム第二回目、みなさまどうぞよろしく。

 秋空が高く晴れた日は、午後ワインを飲んでのんびりしたくなります。私は日本酒だけでなくワインにも目がありません。その日の気分にまかせて何を飲もうか考える時間。それは酒のみにとってはなんとも楽しい瞬間です。私の場合、嬉しい日やのんびりした午後はワイン。ごきげんな夜はマイヤーズラム。気が滅入ってる日はジャックダニエル。そしてゆっくり呑みたい夜は日本酒となります。日本酒の銘柄を選ぶのが楽しくてたまりません(分かりますよね、呑み助の皆さん)。根っからの酒のみの私は、甘いお酒は全然ダメ。カクテルが飲めない可愛げのなさが問題ですが、自他共に認める酔いどれなのでそれでよしとします。 

 温泉には日本酒。このとりあえわせは食事との相性を考えると一番しっくりくるのですが、たまには温泉に入った後にワインを楽しみながらゆっくり食事したい!と思う時があります。そこで今回は、かけながし温泉、きどらないフレンチ、そして豊富なワインを満喫できる隠れ宿、那須高原の静かな湯宿「山樹庵」をご紹介したいと思います。

看板を出していない隠れ宿「山樹庵」

 那須高原はいかにも避暑地。宿やペンションがところせましと立ち並び、観光客めあての店に人が溢れる。そのがやがやした道をスルーし、森の中を走った。山樹庵は道路沿いに看板を出していないという。オーナー西原さんの「街を汚したくない」という気持ちの表れだ。私は事前に郵送してもらった地図を片手に山樹庵をめざした。
 道路を折れ、細い道に入るとこっそりと「sanju-an」の看板があるのを見つけた。車を降りてまず深呼吸。今通り抜けてきた観光地が嘘のように、山樹庵の周りに広大な森だけが広がっていた。
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高原をひとりじめ・100%かけながしの濁り湯・20時間ステイ!

「こんにちは」
ロビーに入るとオーナーの西原さんが笑顔で迎えてくれた。
「まずはお風呂で疲れをいやしてください」
のお言葉に甘えて、お風呂へ。
浴室に入ってびっくり。硫黄の匂いがする。浴槽には綺麗なエメラルド色のお湯がたっぷりとたたえられている。たまらず私はお湯につかった。体にしみいる感覚、それでいて熱くないのでゆっくりとお湯につかっていられる。体の芯からじんわり熱くなる。お風呂の外には森の樹々。ゆらめくお湯の表面に緑が移る。本物の温泉だなぁ。外から小鳥の鳴く声がきこえる。
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 お風呂にのんびりつかっていられるのにはワケがある。山樹庵では火曜日・木曜日は二組限定で貸し切りになるのだ。100%かけながしの濁り湯、ゆっくり20時間ステイ、そしてオーナー手作りの特別フレンチ、選りすぐりのワイン。この特別プランは高原の静かな休日を満喫してもらおうとのもの。邪魔されることなくゆっくりと寛ぎたい…そういう人のための特別プランなのだ。
 山樹庵のお湯は単純硫黄泉で、源泉は近くの火山・茶臼岳方面からひいているという。お湯の色は天候や温度によって毎日変わるそうだ。


和皿で頂くきどらないフレンチで、ワインを呑む!
 
今回、私が一番楽しみにしていたのは風呂上がりのワイン。お湯を堪能した私がホールにおりていくとおいしそうな香りが漂ってきた。お食事はオーナー手作りのフランス料理。特別プランの日は、和皿に盛りつけお箸でいただくスタイルになる。これなら肩がこらずにますます寛げる。
 さて、お楽しみの夕食。食前酒のキールをひとくち。うん。美味しい。カクテルが苦手な私もキール・キールロワイヤル・アメリカンレモネードなどワインベースのカクテルなら好きなのです。さて、ワインを頼もうか。今日は那須牛を使ったメニューが出ると聞いていたので、私は手頃な値段の赤ワインを探した。よし、これにしよう。イタリアワインのボッラ・ヴァルポリチェッラ・クラシコ。
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 一品目が運ばれてきた。「エビのうにソース」さっぱりしていて不思議に上品な味だ。そしてワインをひとくち。うん、ミディアムで軽やかさのある赤で、お料理にぴったり。チョイス成功。赤ワインはグラスにのこるしずくに光を反射させると綺麗なんですよね。普段は渋みのしっかりした赤が好きな私ですが、今日はこのワインで正解。
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二品目は「エスカルゴのバジルソース」。お酒はおいしい肴と一緒に飲んでこそ味が引き出されるもの。赤ワインはますますおいしくなってくる。続いて「かさごの香草パン粉焼き」。オーナーのお料理は絶妙に上品。実はオーナーの西原さん、山樹庵をはじめた3年前からお料理をはじめたとのこと。これには驚いてしまいました。「おいしい!」を連発する私にオーナーさんは「なかなかレパートリーが増えなくって」と照れ笑い。
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 それから運ばれてきたのが「那須牛のビーフシチューにフォアグラをのせて」。うわぁ。これは期待通りのお料理。土地のご馳走で酒を呑む。これ極楽。今回私はイタリアワインを選びましたが、もちろん地元の足利ココワインもオーダーできます。那須の味覚も那須の美酒も堪能したい方は足利ココワインをご賞味あれ!
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 食事のあと、オーナーの西原さん夫妻とおしゃべりしました。「山樹庵にはほんとうに寛ぎたい人に来て欲しい」と西原さん。お金が余っている人や、何もないことの贅沢を感じられないような人ではなく、ここで心から寛いで休んでいってくれるお客さん。そういう人に来て欲しい…その気持ちは私にも伝わりました。西原さん夫婦と楽しく飲みながら夜は更けていきました。

番犬・ベルのお昼寝

朝めざめた私は、朝風呂へ。やわらかい朝の光のさしこむお風呂で、昨晩オーナーさん夫婦と話したことをぼんやりと考えた。山樹庵の周りには緑しかない。でも900坪の緑の中には小川が流れ、山女魚が自生しているという。一度お掃除をすると浴槽いっぱいにためるまで六時間かかるという天然温泉。そして手作りの料理。ここにはそんな宝物がたくさんあって、それをご夫婦ふたりで守っていらっしゃる。その姿はとても素敵だ。心疲れた人が訪れ、心を休めて、癒されて日常に戻っていく。そういう場所であってほしいと思った。
 お風呂上がりに外に出て散歩していると、この宿の番犬ベルのお昼寝に遭遇。ベルはもう老犬だからかその寝姿は無防備でかわいい!眺めていると、オーナーの西原さんがひょいっと現れて「この環境だし、ベルにはいい余生なんじゃないでしょうかねぇ」ととびっきりの笑顔をみせてくださった。
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朝食は奥さんの手作り。朝の光にテラスから見える緑が気持ちいい。朝食には手作りジャムが二種類添えられる。母の手料理を食べているような懐かしさを感じながら、パンをおかわり。
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山樹庵には「くつろぎ」という言葉がよく似合う。東京から約二時間。なんだか疲れたなと思ったら、ここへきて「くつろいで」ほしい。(了)

山樹庵HP

■火曜・木曜特別プラン
二組限定 一名様12500円
※天然かけながし温泉・20時間ステイ・那須牛を使ったフレンチでゆっくりと寛いでください。

■通常 一泊二食10800円~

text by 吉野 斉(よしのいつき) | 2004.10.16 | [ 隠れ家名湯・旨酒探訪 ] | 固定リンク | コメント (4) | トラックバック (0)

2004.09.27

第1回:吾妻の地酒「貴娘」を呑む!「たんげの湯 美郷館」

隠れ家名湯・旨酒探訪 by 吉野 斉(よしのいつき)

隠れ宿を訪ねて
今回からはじまったこのコラム。旅と温泉と旨酒をこよなく愛する酔いどれライターの私・吉野が、一押しの隠れ宿を紹介しようというものです。どうぞよろしくおつきあいくださいね!
 温泉に行くなら隠れ宿、秘湯でのんびり湯浴みをしたら地のものをいただいて地酒をこくりとやる、それが私の旅の一番の楽しみ。隠れ宿や秘湯という言葉はすっかりお馴染みになった感があるけれど、人によって「秘湯」という言葉でイメージするものはそれぞれ違うだろう。私的にいえば秘湯たるもの、温泉街の中にあるのではなく静かな自然の中にあってほしい。できれば一軒宿がいい。部屋数は少ない方がいい。華美でなくていい。派手でなくていい。たださりげないおもてなしを味わえたら嬉しい。
 ここからは私のわがままになる。料理は美味しいほうがいい。土地の味を味わいたい。酒は地酒がいい。地ワインもいい。そしてもうひとつ大切なのが予算だ。隠れ宿ブームで紹介される名旅館の中には「一泊二万~三万」という宿泊料も珍しくない。しかし、私のようなフリーライター(一般庶民・かなり貧乏!!)にはとても高くて手が出ない。しかし予算1万円~1万二千円でよいお湯、美味しい料理、そして旨い酒を愉しめる、そんな旅館は意外にある。私が狙うのはそういう隠れ家的温泉旅館だ。
記憶の中の秘湯「美郷館」
 私が秘湯好きになったのは、学生時代にある旅館を訪れた時からだ。それは群馬県の四万温泉の近くにある「たんげの湯 美郷館」という宿だった。宿を訪れたのは2月で雪の季節だった。宿につくまでバスは山道を行き「こんなところに本当に温泉があるの?」と不安になった。しばらくして雪景色の中にこじんまりとした宿が見えてきた。
 「お風呂は外ですから、すべるようなら雪駄を履いていってくださいね」と宿の人に言われ、雪道を少し歩くとそこには湯小屋がふたつ並んでいた。早速温泉に入ろうと扉を開けると檜風呂と雪の渓流が目の前にあった。澄んだ流れを眺めながら静かにお湯につかり「こういう場所もあるんだなぁ」と放心した。それが私と美郷館との出会いだった。
 この時から私は大型旅館や旅館街の宿ではなく、隠れ宿を探し求めて旅に出るようになったのだ。

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たんげの湯 美郷館へ
私の秘湯探訪の出発点ともいうべきこの宿、実は数年前に改装し、秘湯の雰囲気はそのままに新しい魅力を持った宿として生まれ変わったのである。そこで今回は「たんげの湯 美郷館」を再び訪れることにした。この宿は宿泊料金15000円~と酔いどれライター吉野にとっては少し予算オーバーだが、プラス3000円は思い出へのはなむけじゃ。とってつかわせ。と一人ごちつつ私は美郷館に向かった。
 中之条から四万温泉方面に進み、沢渡温泉方面に分岐し、看板を頼りにしばらく走ると美郷館につく。周囲には民家も何もない。山の中の一軒宿では最初に虫の声が迎えてくれる。玄関を入ると総欅造りの立派なロビー。これは日本最後の木曳職人・林以一氏がてがけたものだという。入ったとたんに背筋がしゃんとなる。心地よい木の香りが香る。
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 美郷館は渓流に面してたっていて、予約の際部屋を選ぶことができる。部屋それぞれに違った趣があるので、好きな部屋を予約するのがおすすめだ。私は雪見障子をあけて渓流を眺めることができる部屋を選んだ。この宿の裏にある山は宿の所有地なので、手つかずの渓流を眺めながらの山道散歩も楽しめる。日の高いうちに、と私は散策にくりだした。
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これぞ秘湯。とっておきの温泉を堪能!
 ほどよく汗をかいたら、さてお楽しみのお風呂に入ろうか。美郷館の何よりの贅沢は豊富なお風呂。まずは「瀬音の湯」へ。レトロモダンな木造建築風呂で、湯舟の下には玉砂利がしきつめられている。すがすがしい木の香りに満ちている。お湯は透明なカルシウム硫酸塩温泉。やわらかく肌触りが気持ちいい。湯加減もちょうどよくリラックス~。
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 それから内湯の「滝見の湯」へ。ここはすごい。湯舟につかるとガラス越しに滝を眺められるのだ。深い青色の滝がとても近くに見えて、すいこまれそうだ。先にお湯につかっていた年配の女性も「キレイねぇ。ほんとに何よりの贅沢ですよねぇ」と笑顔でふりむいてくれた。滝を眺めてゆっくりとお湯を楽しんだ
 風呂を出ると、レモン水と昆布茶が用意してある。さりげない心配りがうれしい。私は昆布茶を飲んでひとやすみ。ふうー、極楽極楽。
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渓流を眺める静かなお風呂へ
 部屋に戻って窓際にコロン。ちょっとお昼寝といきますか。この部屋、障子をあけ寝ころぶと川の流れを眺められるのです。渓流は人の手が入っていないため、流れの底の石の色が見えるほど透き通っていてキレイ。
 ちょっと眠って目が覚める。私はもうひとつの露天へ行くことにした。実は個人的にはこの露天が一番好きなのです。なぜって、私がはじめて訪れたときの湯小屋の露天が館内にちゃんと残されているんですよ。当時の雰囲気はそのまま。檜風呂と岩風呂の二種類、それに大きな露天がひとつ。私はお気に入りの檜風呂へ。ゆっくりお湯に入るとじんわりあたたかくなってきます。湯加減最高。眺めも最高。うーん、気持ちいい~!改築前と変わらず、目の前は渓流。対岸にはもみじの木が。紅葉の季節は色づいたもみじがライトアップされるとか。紅葉の露天風呂もさぞかしいいだろうなあ。機会があったら今度は紅葉の季節に来たいなぁ。
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吾妻の地酒「貴娘」をこくり
 散策もしたし、いっぱいお風呂にも入ったし、そろそろ一杯呑みたいな。…と思った頃に夕食の六時になった。夕食は個室食事どころでいただく。早速、地元吾妻の貴娘酒造の銘酒「貴娘」の冷酒を注文。ここ群馬県吾妻町は四季を通じて涼しく、冬は厳しい寒さになる。地元の澄んだ水と澄んだ空気、そして冬の厳しい寒さが作り出した日本酒はキリッと涼しい飲み口。テーブルには山菜、天ぷら、鮎など山のものに加えて、海のものも並ぶ。山の宿としてはちと珍しい。が、やはり山では山のものを食べたいと思ってしまう私は、鮎の蓼酢を肴に「貴娘」をこくり。キレもあるけど口に含むとまろやかさと香りも広がるお酒。女性でも呑みやすいのでは?しかし、土地の生み出した酒は土地の食材によくあうのう。旬のきのこの天麩羅をほおばり、私は手酌でぐいぐい呑んで、いい塩梅。酔いどれ一丁、できあがり。この瞬間が一番幸せなんですよ。やめられまへんなぁ。

生まれ変わった秘湯
 翌朝、せせらぎの音で目覚めた。よし、朝風呂といこう!私は内湯の滝見の湯へ。
数年前、美郷館が改装すると聞いたとき、正直なところ不安になった。あのなんともいえない風情は消えてしまうのだろうか。もう味わえないのだろうか。そう思った。改装後、はじめて美郷館を訪れた時は、ちょっと緊張した。値踏みするような目つきの嫌な客だったかもしれない。確かに以前のこじんまりとした美郷館はもうない。だが美郷館はある意味「贅沢な秘湯」として生まれ変わっていた。贅沢な純和建築。贅沢な自然。滝や渓流や野山を有し、それが宿の魅力として活かされている。そして全部で五つもある趣向を凝らしたお風呂。ゆっくりと流れる時間。
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 以前の美郷館が懐かしい、と思う気持ちは確かにあるのだが、今の美郷館は以前とはまた違う贅沢な秘湯だ。ゆっくりとした時の流れは以前のままに…。(了)

たんげの湯 美郷館HP http://www.misatokan.com/

@nifty温泉 「たんげ温泉 美郷館」詳細ページへ

text by 吉野 斉(よしのいつき) | 2004.09.27 | [ 隠れ家名湯・旨酒探訪 ] | 固定リンク | コメント (4) | トラックバック (1)